図書館報原稿

こんな文章を書いてみたのですが,図書館報にどうですか?火曜日にI澤センセに渡します。

(ここから原稿)
ブログ(*1)にも書いているように、最近は読書三昧の日々です。最近読んだ本はディックの『時は乱れて』『暗闇のスキャナー』、ジュディス・メリルの『年間SF傑作選7』など。大学時代に買ったまま放っておいた本たち(*2)を本棚から掘り出して読んでいます。
それらのレビューをしてみようかとも思ったのですが、ここでは知り合いを取り上げます。大学SF研で1年上の先輩だった飛浩隆(*3)というおっさんです。
私は島根大学SF研創設メンバーなのですが、同じく創設メンバーのひとりが彼です。書き出したのは大学2年から、でも4年の時には個人集を出してしまうような才気あふれる人でした。
個人集を出した勢いで「三省堂SFストーリィコンテスト」に「ポリフォニック・イリュージョン」という作品で応募し入選、島根県庁に採用になってから何作かSFマガジンに作品を掲載していたのですが10年ほど前に「デュオ」という中編を発表して以来音沙汰なし。公務員ですから、二足のわらじはしんどいかなあと思っていたのです。そのトビさんが4年前、ハヤカワSFシリーズJコレクションから『グラン・ヴァカンス』という処女長篇を出しました。(*4)
いきなり家に書籍小包が来て封を開けると怪しげな本、ところが作者名が見慣れた名前(*5)。「謹呈 飛浩隆」とだけ書いたメッセージカードがはさんであります。正直なところ「やられた!」というのが本を手にとったときの思いでした。
SF研時代、私も少しは創作していたのですが彼の作品と自分の作品が並ぶと明らかな差があります。「あぁこの人には勝てんなあ」と思い私は創作をあきらめ評論に走ったのでした。そうして彼は何作かをSFマガジンに掲載し、それ以来沈黙が続いていました。そのときは「一発屋で終わってくれたか」というのが正直な思いでした。だってくやしいでしょ。一緒にバンド組んでいた仲間がひとりだけスカウトされてメジャーデビューなんかしたら。
ところがところが、大どんでん返しが待っていました。『グラン・ヴァカンス』を出してしばらくして同じく早川から第1短篇集『象られた力』(*6)出版。その本は第36回星雲賞(*7)日本短編部門受賞+第26回日本SF大賞(*8)受賞などいうとんでもないことになります。
もうこうなったら行けるところまで行ってもらいましょう。
いつぞやの個人集『準文学』(*9)の序文に私はこう書きました。
>どうか就職されてからも文章を書き続け、日本のスティーブン・キング
>を目指してほしい。彼ならそれが可能だと、ボクは思う。
25年前私は彼に「日本のスティーブン・キングを目指せ」と言っていましたが、大間違いでした。正しくは「飛浩隆ワールドを極めろ」でした。
これからも彼は傑作、といわなくても秀作を世に出していくでしょう。第2短篇集『ラギッド・ガール』も10月20日に早川から出ました。
「デュオ」からの10年のようなやきもきさせる期間をおかずに、せめて年1作くらいのペースで読者を満足させて欲しいモンです。
【脚注】−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
*1 ちょっと宣伝「山本高校生徒会部長のブログ」http://d.hatena.ne.jp/tk3308/
*2 30年近く前の本ばかりなので紙魚(シミと読むのだよ)だらけで古本屋の匂いがします。
*3「Laterna Magika SF作家 飛浩隆のweb録」http://d.hatena.ne.jp/TOBI/
*4「デュオ」から『グラン・ヴァカンス』への空白の10年は『グラン・ヴァカンス』巻末の「ノート」に詳しいので立ち読みで読んであげてください。もう文庫になっているのでハヤカワ文庫JAの棚を探せばあるはずです。最後の「ええと、つまりその、本書は彼女に捧げる」と言われている奥さんとの結婚式は招待されたのですが行けずで残念でした。
*5 年賀状のやりとりはしていたので「なつかしい!」と言うほどではありませんでした
*6 『グラン・ヴァカンス』は贈ってくれたのですが、この本はもらえなかったので自分で買いました。
*7 星雲賞というのは年1回開かれるSF大会でのファン投票で決まる賞です。
*8 それに対してSF大賞はプロが選ぶ賞です。
*9 読んでみたい人は言ってください、貸します。ただし、これも古本屋の匂いがするノドに悪そうな冊子です。
(ここまで原稿)
酔っぱらいながら書いたので変かもしれませんが,まあいいでしょう。