味のあるええ話し

☆砂かぶり周遊記 「佐賀編」(2)
佐賀のスタンドは味がある。中央では自動の給湯器があるけれど、佐賀では給湯器ではなく給湯おばちゃんがいる。カウンターにちょこんとすわり、客が行くと湯のみにお茶を注いでくれる。文字通り茶のみ話をしている。売店もどこかの雑貨店のように、何でも置いてある雰囲気。焼き鳥のいい匂いが立ち込めるが、スーパーで売っているような菓子パン、カップラーメン、スポーツ新聞などなどが揃っている。この雑多なムードが佐賀の味か。
ここは、中央競馬の発売所が競馬場のスタンドとは別に敷地内にある。このスペースはJRAが管理をしているのだろう、グリーンの競馬場でよく見かける制服を着た人が何人も立っている。聞くと、ここで買った馬券は他のJRA施設でも払い戻しができるという。ということで、当たる可能性を心配する必要はないとわかっていながらも安心。ウオッカを外した馬券を買う。
前回は行くことができなかったが、小学校の校庭ぐらいはありそうな、だだっ広い屋根付きの空間だった。多くのファンが、まだヴィクトリアマイルの発走まで数時間あるにもかかわらず、イスに座って談義をしていた。お隣で馬が走っているのに…。なんともったいないことか…。ちょっと理解できない。確かに地方競馬は予想が難しいという声は聞くが、だからといって中央の、しかも今から何時間も後に走るレースのためにこれだけの人が集まるのか…。
雨は強くなったり、止んだりを繰り返すが、私は馬を間近で見るためカサをさして外ラチ近くへ。地方競馬はムチの音が、痛いほどに聞こえるのが醍醐味なのだから…。だが、肝心の馬券の話をしても面白いことはない。競馬新聞のおまけにもらった赤鉛筆で書いたマークカードが機会で読み取れず、怒られたり…。予想がまず難しい。総じて地方競馬というものはわからない。毎度同じようなメンバーで走っているのに、着順の入れ替わりが激しい。あの馬にこの間勝ったんだから、今度も勝てるだろうと思っていると、全然勝負にならなかったり…。ともかく、そこが難しさの原因でもあるのと同時に、接戦だからこそ騎手の腕というものが勝敗を大きく左右する、そういう競馬なのだと理解した。
そこで素直に騎手で買った5R。鮫島騎手の腕にかけて佐賀競馬2年越しの初的中。収支としてはトントンに近い、やや負け。だが、当てられたことに満足。何とか大負けはせずに済んだ。
飛行機の時間が迫り、パドックの馬たちを背にして帰路につく。バスはまだ来ない。お金は惜しいが大雨の中、タクシーを見つけて乗り込み鳥栖駅へ。前回は佐賀駅行きのバスに乗り込んでしまい、電車で引き返すというドジを踏んだが、タクシーから仮に間違って「佐賀駅」と言っても途中で気がつけば、まだ挽回ができる。
そんなどうでもいいことを思いながら、大雨の景色を車窓からぼーっと眺めていると、運転手さんが不意に「G1がある日はね、混むんですよ。」と話しかけてくる。確かに佐賀競馬のいわば「本割」は重賞もない日。いくら日曜とはいえ、そして雨だからとはいえ、車がこれだけ多いのには驚いた。決して驚くほど人数が多いと言うわけでもないが、佐賀の人は競馬が好きなのだというのが前回同様、よく感じられた。中央・地方問わずに。
「ここら辺はね、中央の馬券が買えるところはほとんどなくてね。コンビニでも売ればいいのにねぇ。」
でも、そうなるとタクシーの商売に多少でも影響があるのではないかと思ったが…。
車中、この運転手さんからいろんなことを聞いた。川田騎手の実家が近くにあるとか、運転手さんの叔父さんは馬主さんをやっていて、中央の的場調教師の兄によく乗ってもらっていたとか、佐賀は私が感じたように前に行ったもん勝ちで鮫島騎手と山口騎手から買えば必ず儲かるとか…。あとあれとかこれとか…ここじゃ書けないようなことも…。
「今、賞金が減っててねぇ。馬主やめる人も多いんですよ。」やっぱり、地方競馬は大変だ。「5着までに入ってくれればエサ代ぐらいは出るんだけどね…。それでも賞金ばっかり減らされてるでしょう…。みんな馬だけじゃ食ってけなくてね…。」僕が金持ちだったら、絶対馬主になるのだけど…。タテガミぐらいしか養えない。見覚えのある線路沿いの道に入り、鳥栖駅が近づく。激しくワイパーを動かしながら、タクシーは急ぐ。
「ところで、お客さんはどこから来たの?」「千葉です。中山の近くから。」「前も乗せたことあるよ。駅から。」
確かに二年前、駅からタクシーに乗ったのだが…。「本当ですか。僕は覚えてないですけど…。」「言葉の感じでね、わかるんですよ。ほとんど競馬場にはこっちの人しか乗せないから。」
正直、リップサービスではないかと思いつつも嬉しい。ただ、嬉しい反面やっぱり僕のように他のところから佐賀まで来て、競馬場に行こうと思う人が少ないのかと思うと、ちょっと残念にも思った。
帰りも各駅で博多へ。そのまま空港へ向かい福岡空港に着いた頃、ちょうどヴィクトリアマイルの発走時刻。携帯で実況を聞く。ウオッカが圧勝。天邪鬼には辛い決着だが、去年の忘れ物を見事に取り戻した名馬に拍手。
そういえば、運転手さんこう言ってた。「私はウオッカからね馬単で1000円ずつ総流ししました。」「なるほど、穴が来れば元取れますね。」「そうです。17倍以上だったらね、儲けになります。ハハハ。」果たして60倍の中穴。馬券の買い方は性格が出る。根っからのヒネクレ屋の私はウオッカを外して勝負。ウオッカから正直に買うような人は、ウソはつかんだろう。僕を覚えていたというのは多分本当なのだろう。色々と聞かせてくれた情報料ではないが、おつりを断ったことで先週NHKマイルカップを当てたツキまで運転手さんに渡してしまったか…。しかし、それでも不思議と悪い気はしないのであった。

http://archive.mag2.com/0000150903/index.html

定年なったら全国の地方競馬場巡りってのも良いですなあ。