堀川の奇跡

今日は朝から山高へ、PTA主催の講演会に行ってきました。講師は京都市堀川高校校長の荒瀬克己氏。いろいろなエピソードが次から次へとあふれ出てきて目が回るようでしたが、いちばん印象に残ったのは荒瀬氏が国語科教員として伏見工業にいたときのモノ。
授業している教室(平尾くんのいるクラスだったそうです)に別のクラスの生徒が入ってきてそのクラスの生徒をいきなり殴り始めたんだそうです。「何してんねん」と叫ぶもしばらく間をおいて「・・・関係ないやろ」。その殴っている生徒を廊下に連れ出して取っ組み合いになるのですが、近辺の教室からは1人も教員が出てこない、1人通りかかった教員も「生指のセンセ呼んでくる」とどこかに行ってしまう。荒瀬氏曰く「いまそこにある危機」から目を背けている・関わりを持とうとしない、そういう教員集団がガッコを荒れさせる。そういうエピソードでした。
いま私が勤めているガッコも似たようなところがあるかなあ、と。しかし1年の担任団はそんなことないぞ、と。
廊下で暴れている生徒がいたらみんな担任室を飛び出していくし、誰でもが問題を起こした生徒を担任室に連れてきて諄々と話しできるし。若手の馬力とベテランの見識がうまいことバランス取れている良い担任団だと自負しています。
うちのガッコの問題点はそういう学年が単発だということ。今年うまくいっても来年うまくいくとは限らないし、がんばっている学年をサポートしようという態勢がないし。でも今年の1年担任団はがんばっています。今年の1年の副担には来年1年担任になるであろう人たちが多くいます。この雰囲気が次の学年にも受け継がれればガッコは変わっていくと信じたいです。

ちなみに「堀川の奇跡」に関してはこんな文章をWebで見つけました。長文になりますが引用します。

堀川の奇跡」ならぬ「堀川の軌跡」
先日、NHKの「プロフェショナル 仕事の流儀」で堀川高校の校長が取り上げられていた。
この学校については、過去にもあちこちで書いてきた。メディアが積極的に描こうとしない、ごく単純な「堀川の奇跡」の仕組みについて。今回は当事者や現場からのクレームを覚悟で、あえて書いておきたい。
先日、京都の進学塾の元同僚と「堀川の奇跡」について話していた。
彼女はこう言った。
「『堀川の奇跡』じゃなくて、どうやって合格実績を挙げたかの『堀川の軌跡』やったら言えるけどね」
彼女と同じく、私自身も京都市堀川高校京都府嵯峨野高校が同時に学区制を廃して新コースを作った時、進学塾の現場にいた。
堀川探究科と嵯峨野こすもす科。
まず、賢い女子生徒たちが動き出した。
番組の中で「公立高校に行ったらアカン」と京都の公立中学で進路指導がされていた、という内容があったが、まさにその通りだ。私の塾にもたくさんの「京都の公立教師の子ども」が通っていた。受けるのはもちろん、私立中学・高校だ。
そもそも京都は中学入試が盛んなためか、公立中学からして荒れ気味の学校が多い。テスト対策授業をするために近隣の中学の進度や定期テスト・授業内容を細かく分析していたが、レベルは驚くほど低い。塾に行かなければ、私立高校入試の問題にはまったく太刀打ちできない現状だった。
東大・京大レベルの難関大進学を考える生徒たちは私立高校を目指す。
男子は洛南・洛星の2大進学校がある。
ちょっと奈良まで足を伸ばせば東大寺学園がある。
女子で最難関は国立の京都教育大附属高校。
しかし、定員が少ないので不合格になるリスクが高い。そうなると、将来的に国公立を目指すなら京都女子高校の特進コースぐらいしか、選択肢がない。もしくは、地元学区の公立2類と呼ばれる特進コースか。しかし、府立高校からの国公立大現役合格はかなり厳しい。
そこに「国公立大への進学を目指す」とぶちあげた堀川と嵯峨野が専門学科を作り「京都府全域」から生徒を集めると言い出した。当時、両方の学校見学に行ったが、立地や校舎の設備で堀川高校が圧勝。選択肢の少なかった賢い女子生徒たちも、同じく見学に行って興奮して帰ってきた。
女子の受け皿としては悪くないかもしれない。
私の認識はそこまでだったが、塾の本部から指令が飛んだ。
「洛南・洛星を受ける男子を堀川の適性検査に送り込め」
嵯峨野より、塾のトップは強硬に堀川を推した。
事前に模試の成績リストも提出させられた。それをどのような学校側との話し合いに使ったかは私は知らない。
実は、私立高校と塾がよくやっている手法だ。
事前に模試の結果を提出しておけば、当日の試験で多少の不足があっても(大幅な不足はさすがに認められないが)合格は事前に確約がもらえる。受験する生徒の名前の後に「○」「△」「×」などと、事前に記号が入って学校側から戻ってくる。「○」は確約。「△」は当日の試験次第。「×」は見込み無し。こちらは「×」のついた生徒には、何も知らせずに進路指導で別の学校を受けるように誘導する。
合格発表の日、「受かったで!」と電話してくる生徒たちの結果を、こちらは事前に把握している。この塾と私学の取引については、朝日新聞ですっぱ抜かれたことがあるほどだ。
どこまで塾と結託していたかはともかく、堀川高校が探求科の開設にあたって、猛烈な営業を掛けたことは間違いない。塾のトップから何度も「荒瀬」の名前を聞いた。曰く「荒瀬先生に『賢い子を送ってくれれば損はさせない』と頼まれた」と。
私は当時、その塾の校長の1人だったため、進路指導には口を出せる立場にあった。
「中学の先生はどう言うてんの」と聴くと、「堀川の方が、洛南よりええんちゃうかと言われた」と賢い男子から帰ってきた。彼ら自身も、保護者も学校見学に行ってから、動揺しはじめた。「ガラス張りの校舎」「冷暖房完備」「PCルームなどの最新機器」「海外への修学旅行」……私立より格安で、これらの恩恵を受けられる。洛南高校の良くも悪くも歴史ある校舎や設備に比べて、さぞかしまぶしく見えたことだろう。それに共学だ。思春期の男子にとって、魅力が無いとは言えない。
実績は未知数。
その学校に自分の将来を賭けるかどうか。
私は校舎を見た時、堀川高校は“戦略”を知っていると思った。
子ども相手に「入学したい」とイメージさせるのに、授業内容やカリキュラム・教師の質の高さを提示したところで伝わりにくい。散々、2番手・3番手の私立がやって失敗している手法だ。それよりも、圧倒的なものを見せる方が早い。派手な校舎、最新機器。そして、彼らが信頼する人たちの口から営業させる。すなわち、中学や塾の教師。
1年目に地頭のいい子をかき集めれば、後は勝手に偏差値ランクがつく。
倍率が高く、高偏差値の学校を受けることは賢い子にとってステイタスだ。
次の年からはスムーズに同レベルの私立高校から生徒が流れてくる。
その仕組みについては、2005年・京都新聞の以下の記事が参考になる。
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/rensai/syuzainote/2005/050819.html
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/rensai/gakuryoku/050928.html
要は「営業力」の勝利であり、文中にあるように「入学した生徒の学力レベルから見れば奇跡でも何でもない。そういう生徒が入学する学校に変えたことが奇跡だった」という関係者の言葉が全てを表している。
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生徒集めに苦慮する塾にも、2年目からは「堀川高校探求科・合格者○人」が売りになる。  
堀川高校の入試は先に英・数・国と「発想力や分析力、問題解決能力をはかる検査」が行われる。難関私立タイプの試験で、まず通塾していなければ解けない問題だ。
国語担当であった私は、手探りで「堀川・嵯峨野入試対策」を作った。サンプル問題や京都教育大付属の小論文対策を参考に、文章を読み取って自分の意見を述べたり、反論を考えたりする授業を組み立てた。初年度からそこそこ、オプション授業として稼がせてもらった記憶がある。今では京都の進学塾では、どこも積極的に「公立適性検査対策コース」を設けている。当然、塾の中でもトップレベルの子しか合格しない。
つまり、「堀川の奇跡」は「普通の子を劇的に伸ばす」奇跡ではないのだ。
「能力の高い子をかき集めている公立の進学校
……大阪で言うなら北野高校と変わりない。
ただ、賢い子が入っても、ダメにしてしまう高校はいくらでもある。
私が個人的に「堀川の奇跡」を「奇跡」と思うのは、それは大学の合格実績が躍進したことではなく、「潜在能力の高い子をさらに開花させる」力があったこと、それを公立で成し遂げている点だ。
大学教授から漏れ聞いた「堀川の子は勉強の仕方を知っているから、教えやすい」というコメント。
大学とは本来、テーマをもって学問を追求するところ。 
その本質に目覚めさせる授業をしている点で、堀川高校の試みや校長の手腕は評価されるべきだ。今回の番組内容で、受験指導だけに偏らない「学問・学校生活の魅力」は十分に感じた。
ただ、いつも思う。
世間が「堀川の奇跡」と評価しているのは、結局は「大学合格実績の伸び」でしかない。
「経済的に私立に行けない子が、希望を抱ける公立高校」などというフレーズが番組内でも出てきたが、塾に行かなければ合格できない公立、私立に本来は進学するはずだった生徒を奪って成り立っている公立であることに代わりはなく、経済格差と学力格差の連鎖を解決する仕組みにはなっていない。
これは予算と自由度の点で有利だった「京都市立」だから、できた部分が大きいのだ。京都府立の嵯峨野高校も同時に専門学科をスタートしたが、堀川の投資や伸びには追いつけなかった。
冒頭の現役塾講師はこう言っていた。
「結局、まだ少しはいた地元の賢い子を堀川に引き抜かれて、京都府立の公立2類はますますダメになってる。中学で真面目にがんばって、お金をかけずに一般入試対策だけで行ける学校では、相変わらずロクな大学に行けないんだよね。そう思うと、何が『堀川の奇跡』『公立の星』だ、とアホらしくなる」
メディアは本当の「堀川の軌跡」を伝えようとしない。
大学合格実績を伸ばしたければ、中学や塾への営業を強化しろ。
実績が出る前に生徒を惹きつける、校舎やイベントを用意しろ。
公立高校の奮闘と同じ手法をやらずに「探求科の内容」だけ真似しても、大学合格実績は伸びないということを、きちんと教えてやらなければ迷走する公立が増えるだけだ。
私は現在、堀川高校となんら関係が無いので嫉妬や揚げ足取りでこういう記事を書いているのではなく、あまりにも「本質」から目をそむけた持ち上げ方に疑問を感じるので、あえて書かせてもらった。

http://edurepo.com/?p=75