ジャパンカップ回顧

歴史はまだ更新され続けるのか。名馬ウオッカが7つ目のG1タイトル。
ここに至る文脈から言えば、ウオッカという馬にとってこのレースは重要に意味合いを持っていた。前走、天皇賞・秋の敗戦ではチグハグなレースではあったが、最後は脚が止まってしまう、ウオッカらしくない負け方で3着がやっと。位置取りが後ろ過ぎたという解釈も可能であったが、陣営が大きく落胆したように、この馬の現時点での評価そのものに影響しかねない結果となった。それだけにこのレースは今一度、真価を見せ付けるための重要な一戦となった。
今回は1000m59秒ちょうど。そして前後半がなんと共に71秒2。さらには、ペースが落ち着く3ハロン目以降のラップが1秒以内で推移するという、超淀みのない、底力が試されるレース。結果からいえば、リーチザクラウンが作ったペースがウオッカに2つの意味で利したのは確か。まず1つは、依然として折り合いに不安を抱えるタイプであるこの馬にとっては、 流れた方がスムーズにレースができる。そして、もう一点は特に先行馬にとっては、展開云々ではなく、純粋に底力が試される流れになったことで競走馬としての能力が問われることになったこと。他馬に対する相対的なアドバンテージを手にできた。厳しいペースがウオッカを利する結果となったと言える。
時々不可解な位置取りをする武豊騎手からテン乗りルメール騎手にかわり、どのような答えを出すのか注目だったが、道中4番手待機の「正攻法」。多少行きたがるところを見せたが、前述の淀みないペースで気分よく走れた。圧巻は直線。ここまでに早い流れで脚をためていなかったにもかかわらず直線に入って、さらに0秒6のペースアップとなり、競走馬としての「底力」が試されるレースとなった。しかし、今回も直線で他馬を待つ余裕。昨年の安田記念の時もそうだったが、とにかくこの馬は直線に入って他馬が懸命の叩き合いをしているのを尻目にして、手綱を動かさずに楽々と追走ができるのが素晴らしい。ルメール騎手のゴーサインは、ラスト400m過ぎ。正直、ルメール騎手の仕掛けがやや早いような気もしたが、一瞬にして抜け出し、最後は仕掛けのポイントの影響、あるいはハイペースの影響か12秒台にタイムを落としたものの、オウケンブルースリを何とか捻じ伏せて7つ目のタイトルを獲得。
これはただの「1勝」ではない。この馬のキャリアにとって非常に重要なレースとなった。とにかく内容が濃い。勝ち時計ペースに引っ張られる形だったが、時計は2分22秒4で歴代3位と立派。前後半が同じ厳しいラップで先行策で粘りきったのだから、再度の完全復活と宣言してよい。この後も現役生活を続けるか不明だが、このレースでウオッカという馬の揺ぎ無い実力が確定されたと言えよう。確かにこのクラスの名馬で、展開、気性、位置取りと様々な要素にこれほど影響を受けてしまう馬も珍しいが、全ての障壁をクリアして直線を向いたときの破壊力は競馬の歴史に残るレベル。楽々とギアチェンジができる瞬発力、そして長い直線での伸び続けられる脚を残せるスタミナ。まさに東京で勝つために生まれてきたような競走馬だ。
2着は僅かに届かず、オウケンブルースリ。最後方待機で直線一気の作戦は、思いのほか極端だったが、一発を狙った内田騎手の乗り方は正しかった。展開もはまり、大外を別次元の脚で追い込んできたが…。ただ惜しむらくは4コーナーでの不利。他馬と接触するような場面があり、一瞬だけスパートのタイミングを逸した。今回は極端なレースを敢えて選んだ印象だが、 そもそもスタミナも併せ持つ「タフ」なタイプ。切れ味も目立つが、実は正攻法で押し切るレースもできそう。王道的なレースで再度。
3着は3歳牝馬レッドディザイア。道中は中団のインで我慢。既にこのコースでは、オークスで勝ちに等しい2着を経験しているが、一部には小回りの方が合っているとの指摘もあった。だが、広いコースでも全く問題なし。直線に入って前が詰まりかけて仕掛けのタイミングがやや遅れてしまったのが痛かったが、前が開くとすばやく反応。最後までしっかりと伸びて大健闘の3着。春に2回ブエナビスタに敗れたことが、この馬の評価をやや不当なものにしていると感じるが、スタミナ、気性、スピード、切れ味等色々な競走馬としての諸要素を平均で捉えるならば、3歳牝馬の女王はずっとこの馬だったのではないか。
4着コンデュイットは、スタートで後方。この馬のイメージから、もっと前で底力勝負に出るのではないかと勝手に思っていたが…。中団から。直線で追い込んできたが…。ハイペースを警戒したのかもしれないが、結果的にはもっと前で持ち前のしぶとさを発揮した方が良かったか。ただ、このスピード決着でも十分対応できたのは、むしろこれからの種牡馬生活に際して、 評価を上げることができたかもしれない。
5着エアシェイディは、差し比べで浮上。瞬発力勝負でやはり強い。
9着はレースを主導したリーチザクラウン。息を入れずにこの馬らしい逃げ。だが、この馬らしい「逃げ」とは一体なんだろうかと改めて考えてしまう。菊花賞は距離が一応の敗因だろうが、ダービーでは馬場、神戸新聞杯では展開に助けられたのも確か。G1レベルで結果を残すにあたっては、実は距離には限界があるのかもしれない。あるいは、 「普通の逃げ馬」のようにタメを作って逃げるとか…。一本調子の競馬を、それが合っているということで続けているのだろうが、何か転機がほしい。間違いなく能力は高い馬。13着スクリーンヒーローは中団で脚をためていたが直線では全く伸びず。今回はワンペースの厳しい流れ。脚をためきれなかったのかもしれない。

http://archive.mag2.com/0000150903/index.html

上の色を変えた文章のような特質を持った馬を果たして名馬と呼べるのかどうか。私に言わせればウオッカは「はまれば強いクセ馬」です。