ダービー回顧

史上最高のメンバーの評判の高かった第77回ダービー。制したのは正直ここまで路線の「ストーリー」の中心にはいなかったエイシンフラッシュ
まずレースが終わって様々な数字を繰っていると気がつくのは、驚異的な数字32秒7。これはエイシンフラッシュの上がりの時計。さらにはローズキングダムも32秒9。86年までのデータしかないが、おそらくそれ以前も含めて、ダービー史上初めて、32秒台で上がった2頭だろう。
当然、こういう脚が使えるということは、展開は言わずもがなスロー。1000m通過61秒台はもとより、注目すべきは1000m通過後の2ハロン。13秒台が連続する過去10回では見られなかったラップタイムの推移。1400m通過が88秒台というのは、06年以来の超がつくスローだろう。しかし、06年とは異なるのがこの88秒の内訳。06年の場合、3ハロン目という早い段階で13秒台、そして次に12秒8、そしてその後は12秒台とほどほどに、一定の緩いペースが続くラップ構成。一方、今年は2ハロン目に11秒台という速い時計。その後徐々にペースが緩んでいって、6、7ハロン目にさらにペースが緩むというペース。馬たちにとっては、ずっとそれなりの脚を使わされる前者よりも後者の場合の方が楽にスタミナを貯められる流れ。結果、06年以上に後半にペースが加速する「上がりの競馬」となった。ちなみに、06年は上がり3ハロンが35秒3。切れ味勝負というよりも前々で一定のラップでしぶとく粘れるタイプに向く流れ。勝ったのがメイショウサムソンだったという点をイメージすると理解しやすいだろう。しかし、今回は33秒4。上がりの脚がなければ通用しない稀有なダービーとなった。
ダービー馬、エイシンフラッシュ皐月賞3着からの栄光。道中はヴィクトワールピサの後ろ。京成杯のレースぶりからは、先行馬というイメージもあったのだが、前走を踏襲して内田騎手は脚を温存するレース。着を狙うならば前々という手もあったが、人気薄だっただけに一発を狙う作戦。これが奏功した。4コーナ
ーでは、先頭からの距離は2着となったローズキングダムヴィクトワールピサとほぼ同じ。しかし、直線は圧巻。トータルで32秒の脚だが、おそらく最初の2ハロンは10秒台。特に直線入った直後、各馬手綱が動いていたがこの馬は、持ったままでこの時計。他馬よりワンテンポ遅らせて残り400mでゴーサイン。
一気に突き抜けた。ここまであまり切れるタイプという印象でもなかったが…。前走は確かにいい脚を使ったが、展開的にはまった感も…。だが、今回改めてこの馬の能力を示したということなのだろう。ただ、展開がかなり極端だっただけに、ただの切れ者か、奥が深い馬なのか、それは今後のこの馬の積み重ねるキャリアによって自分自身で証明していくのだろう。ともかく、今回のレースぶりは世代トップの馬に相応しいもの。特に、直線でのパフォーマンスはそうそう簡単にできるものではない。素直に賞賛したい。
2着ローズキングダムは、中間色々あったが後藤騎手でよかったのではないか。とにかくこの馬の能力を信じた、勝ちに行く競馬で清清しいレース。直線では勝ち馬よりも前で先にスパートを仕掛けたが、内外の差、そしてゴール直前で外にふれてしまったことで僅かに届かず。それでも久々にこの馬の勝ちパターンのレース。後藤騎手は「馬は勝ったと思っているだろう」と述べたが、力を発揮させた満足感に溢れる、そして馬の力を最高に褒めそやす名言と思う。ヴィクトワールを意識したレースで勝ち馬の切れ味は計算外だったのは仕方がない。距離はこのあたりがもしかしたら限界なのかもしれないが、心を少し揺さぶられる劇走。馬体がもっと成長できれば再びG1も…。
1番人気のヴィクトワールピサは3着がやっと。前目の位置取りでペースを考慮しても悪くない作戦。しかし直線では思ったよりも伸びなかった。中山での2戦のように400mの区間では抜群の切れ味を使えても、600mの距離での32秒台の脚が問われるまで極端なレースとなると厳しいのかもしれない。4着ゲシ
ュタルトは先行力を生かしたレースぶり。先述の06年のようなラップであればもっと上があったか…。ここまで切れ味が問われると分が悪いか。5着ルーラーシップは勝ち馬と同位置からスパート。最後はよく盛り返して差を詰めたが直線半ばでペースが上がると少し引き離されてしまった。一気にペースが上がるよう
なレースは合わないかもしれない。意外に小回りの方が…。
2番人気ペルーサはスタートで後手を踏んでしまい…。道中、前半は腹をくくって決め手を活かすべく後方に位置していたが、これだけペースが緩くなってしまうと位置取りを変えなくてはならないと横山騎手は動き出す。だが、この落ち着いたペースの中、動くタイミングが難しくなってしまった。この分が最後に響いたのだろう。ただ、この馬自身33秒3の上がりで力は出したか。ただ、もっと前の位置取りでもこれぐらいの脚を使える馬。もしそれが出来ていれば…。

http://archive.mag2.com/0000150903/index.html

藤原英師開業11年目結果出した/ダービー
藤原英昭師(44)は開業11年目でダービートレーナーの座についた。「次は武豊が出ているダービーを勝ちたい」と話した。武が負傷した時に乗っていたのは管理馬ザタイキ。NO・1ジョッキーがダービーで騎乗できない責任を感じた。29日の金鯱賞で故障安楽死となったタスカータソルテにも思いをはせた。「ダービーに出て、シンガポールも連れて行ってくれた」と伏し目がちに語った。
亡くなった父玄房(のぶはる)さんは繋駕速歩競走(馬車レース)の騎手だった。引退してからは厩務員としてメジロモンスニー(1枠1番で83年ダービー2着)などを担当していた。子供のころから当然のように馬に慣れ親しんだ。厩舎を開業する時、スタッフを集めて「おれのやり方で結果が出なかったら調教師をやめる」と話した。体質が弱くデビューできないはずの馬をデビューさせ、0勝で終わる馬に1つでも勝たせた。10年前、角馬場でダクを踏ませる馬術流の調整をすれば「アホか。乗馬と競馬は違う」と周囲から陰口をたたかれた。それでも「フィギュアスケートでもスピードスケートでもスケートをすることは一緒」と意に介さなかった。基本を徹底する自分のやり方なら、必ず結果が出るという自信があった。
ダービー馬の秋のローテーションは未定だが、厩舎にかかげられているスローガンが壮大な目標を示している。「Always Quest for the Worldclass Excellence(常に世界水準を追及しろ)」。

http://www.nikkansports.com/race/news/p-rc-tp0-20100531-636095.html

藤原師がダービー勝ったのはもちろんですが、タスカータソルテと同厩のエイシンフラッシュががんばってくれたことがいちばんうれしい(涙)。今週藤原厩舎からの出走はタスカータソルテエイシンフラッシュだけだったのです。天と地の結果になりましたが、エイシンフラッシュの勝利はタスカータソルテもよろこんでいるでしょう。
テレサイトのレース映像と検量室前インタビューはこちら、勝利ジョッキーインタビューはけっこう泣かせます。