すべての馬にドラマが

メロディ青藍の夢乗せ18年ぶり菊咲かせる
登別から18年ぶりの菊花賞馬誕生へ−。トウカイメロディ(牡、後藤)を生産した青藍牧場は、先代の田中義熊氏が70年に創業。2代目の芳郎代表(59)が受け継ぎ、小規模ながら家族でひたむきにやってきた。温泉地として知られる北海道登別のサラブレッド生産牧場はたった3軒。ユートピア牧場が生産した92年ライスシャワー以来、18年ぶりのクラシック制覇が懸かる。
山に囲まれ海が見渡せる小高い山の上の静かな環境。獣医師だった義熊氏は、主に胆振地方の牧場にかかわってきた。芳郎代表は「胆振に恩返しではないけど、夢だった馬の生産も先代はこの土地にこだわってやってきました」と思いを語る。
サラブレッド生産はまったくの素人からスタートした。九州出身で娘婿の芳郎氏も獣医師だが、生産の経験はなかった。苦労は並大抵ではない。雨、雪が多く、災害も続いた。有珠山噴火の時は火山灰が牧場に2センチ以上も積もり、1カ月間放牧できなかった。さらに、牧場開設4年目で先代が突然亡くなった。周りからは繁殖牝馬を売ってくれと言われたが先代の妻ヨシコさんは頑として売らなかった。芳郎代表の妻忍さん(60)は「母は厳しく強い人でした。牧場を続けていくという先代の夢を守り続けました」と話す。
多くの出会いが牧場を支えた。二風谷軽種牡馬共同育成センターの故稲原敬三オーナーもその1人。トウカイメロディは稲原氏の育成場で鍛えられた後、07年のHBAセレクションセールで700万円で落札された。芳郎代表は「稲原さんが見いだしてくれた最後。多くの人にお世話になり、だれか1人でも欠けていたら今はないですね」と振り返る。当日は代表夫婦2人で競馬場を訪れる。忍さんは「馬に迷惑をいっぱいかけたけど、喜びもいっぱいもらった。とにかく無事で…。それだけです」。
2年前のセールでメロディを引いたのは、11日に式を挙げたばかりの3代目夫婦、娘美智子さん(34)と娘婿昌敬さん(30)。家族で守り続けてきた夢は、ずっと続いていく。

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