菊花賞回顧

ウィーク快挙 初勝利から最速V
究極の夏の上がり馬が大輪を咲かせた。7番人気の伏兵ビッグウィーク(牡、栗東・長浜)が川田将雅(ゆうが)騎手(25)に導かれて2番手からロングスパートを決め、最後の1冠を手に入れた。初勝利から106日の制覇は、現在のレース名になった1948年(昭23)以降最短。1番人気ローズキングダムは1馬身1/4差及ばず2着に敗れた。
最終3角の下り坂。川田がビッグウィークにゴーサインを出して勝負に出た。後ろから迫り来るローズキングダムを封じるため、そしてパートナーの力を信じてのロングスパート。直線半ばで先頭に立ってからも、ゴールを目の前にしても、鞍上は最大のライバルを背中に感じ、右ステッキを入れて鼓舞した。「後ろから強いのだけが来なければと思った。瞬発力勝負なら分が悪いので、気分よく走ってくれたらと思った」。川田はゴール板を過ぎると、相棒の首筋をなでて3000メートルの激闘をねぎらった。春クラシックホース不在の菊の舞台で、またもやシンデレラホースが誕生した。
ヴィクトワールピサ皐月賞を勝ち、ダービーでエイシンフラッシュが頂点に立った当時、まだ未勝利馬の身だった。初勝利は7月10日の阪神。ダービーから41日たっていた。早くから素質を認められながらソエがひどく、陣営は1月の未勝利戦を最後に5カ月間を休養に充てた。脚元が固まり、川田とコンビを組んでからは3連勝。「1戦ごとにいろんなことを覚えてくれた」。神戸新聞杯3着で手に入れた菊花賞行きの切符はゴールへの直行便だった。雌伏の時を経て、最後の最後で1冠を手中に収めた。初勝利から106日の菊花賞制覇は史上最短。伝説のアカネテンリュウオウケンブルースリをしのぐ究極の上がり馬が、淀で輝いた。
川田にとってもつらく、長い2週間を経ての勝利だった。秋G1初戦のスプリンターズS。2位に入線したダッシャーゴーゴーが4着降着処分となり、自身も4日間の騎乗停止処分を受けた。「多くの方に迷惑をかけた。乗れなかった2週間反省して、あらためて乗せてもらうことで、ありがたみを感じることができました」。ファンの前でも、自らその話題を切り出し頭を下げた。復帰週で勝ち取った、08年皐月賞キャプテントゥーレ)以来のクラシック2勝目にも決して派手な喜びはない。それは罪滅ぼしの思いが勝っていたからだろう。馬はまだまだ成長途上。シンデレラストーリーは第2章に続く。

http://www.nikkansports.com/race/news/p-rc-tp0-20101025-694037.html

最後の一冠に手を伸ばすだけ…と思われたローズキングダムだったが、先に冠を奪って行ったのはビッグウィーク。神戸新聞杯3着馬がまたも戴冠。
コスモラピュタの逃げは想定済み。津村騎手の絶妙なペース。大きく引き離して無謀な逃げと紙一重ではあったが、それはあくまで見た目だけ。実質的なペースは平均ペース。大きく逃げたコスモラピュタに惑わされたか、各馬追いかけなかったために道中楽々と逃げを許してしまった。特に指摘したいのは、勝負どころとなる3コーナーの下り坂、残り800mの地点でのタイムが138秒5だった。実はこれは過去10回で2番目に遅い時計。それにもかかわらず、ここで後続の馬群とコスモラピュタとの差は依然として7〜8馬身。その馬群の先頭からローズキングダムまではさらに10馬身ぐらいの差。有力馬の多くが控える形となり動くに動けずにペースも上がらず、結果、逃げ馬と馬群の距離も縮まらず。これは逃げ馬、さらには先行馬にとって「美味しい」展開となった。
1番人気を背負ったローズキングダムは慎重な競馬に徹す。中団やや後方でジックリと待機。既に折合いについては前走で懸念を払拭。武豊騎手らしい位置取りで4コーナーから直線の瞬発力勝負で何とかなるという計算だったのだろう。未対戦の馬多く、なかなか戦略が難しいところではあるが、他に合わせる必要なく自分の競馬をすれば格の違いで押し切れるという考え。それは間違いではないだろう。ただ、ラップタイムから言えば、あまりにも後ろ過ぎてしまったことは確か。2000m過ぎても我慢。動いたのは3コーナーから。中団まで押し上げて直線勝負。ここまでのこの馬自身の位置取りの推移は予定通りだっただろうが、やはりペースという点が想定外。前の馬が余力を十分に与えてしまったことが敗因だろう。仮にヤマニンエルブが逃げていれば、ここまで慎重にはなれなかっただろう。途中で動いて捕まえに行く可能性もあった。かえってそういう正面からの地力勝負に持ち込めれば良かったのかもしれない。しかし、逃げたコスモラピュタは伏兵。これでは動くに動けない…。結果は非常に残念ではあるが、鞍上は責められないだろう。馬自体は春の不振を完全に脱却。充実ぶり目立ち、古馬との戦いでもきっといい勝負をしてくれるはずだ。
さて、勝ったビッグウィークは2番手で競馬を進めた。逃げ馬にペースを作ってもらって自身は馬群の先頭で悠々とプレッシャーなく歩を進めることが出来た。持ったままで4コーナーまでいい位置をキープ。コスモラピュタといういい目標もおり、後ろからもせっつかれず。一番楽な競馬ができたのはこの馬だった。直線入るとためた脚を使って逃げ馬をとらえるだけ。神戸新聞杯(G2)では瞬発力勝負で1、2着馬と差が出てしまったが、今回は位置取りのアドバンテージを生かしてローズキングダムの追撃を封じた。前走は超スローで展開の恩恵受け評価が難しかったが…。今回もある意味では展開の恩恵を受けたラッキーがあったのも事実。正直、この後の展望がまだ描きにくいのだが…。ともかく、川田騎手の流れを読む能力に改めて感服。
上位馬は悉く先行馬。3着は人気薄のビートブラック。前走で2400mを快勝してスタミナを示していたが、今回はさらに勝ち馬同様にいい位置で立ち回れたのが大きい。ステイヤー気質で、引き続き長めの距離で。レーヴドリアンは4着と僅かに馬券に届かなかったが、力は出し切った。福永騎手は見事。ゲートも問題なく出てスッと出たなりの先団の位置をキープ。道中は先行集団の一角も、3コーナーでペースが上がっていくところで一旦下げて脚をために掛かる。4コーナー手前では後ろにいたローズキングダムとほぼ同位置となったが、インにいる分だけ距離のロスの点でアドバンテージ。ペースを考えれば、ローズキングダムに相手を絞ったとして、ほぼ完璧なレース運びで直線を迎えることができた。若干仕掛けが遅れた分が少し残念。最後は脚色一緒だったため、スムーズに追い出せていても…という気はするが、長い脚が使えるか否かを確認するためにも、ロングスパートをして欲しかったとも思うが。
6着は上がり馬のトウカイメロディ。後ろからの競馬となったが、スタミナ豊かなタイプ。もっと前々でも良かったと思うのだが…。青葉賞(G2)同様に、後ろのまま、なんとも歯がゆいレースで終わってしまった。7着は皐月賞2着馬のヒルノダムール。中団から。ローズキングダムと同位置で4コーナー回り、この馬も瞬発力に賭けたが、前にいたアロマカフェに進路を狭められてしまう苦しい状況に。脚を使い切れないままの負け。最後はいい脚を見せていたため少し残念。最内が影響したか。ただ、これも競馬。ところで、ローズキングダムは別としても、ゲシュタルト含めて条件が変わったとはいえ、春のクラシック上位組が秋イマイチ。世代を見ていく上で少し気に掛かる…。
人気を集めたクォークスターは、最後方。もうこの展開では勝負にならない。展開に合わせて立ち回った同じ脚質のレーヴドリアンとは鞍上の判断が明暗を分けたともいえよう。この展開ではいくら33秒台で差を詰めても空砲。血統的に距離が心配であり、こういう慎重な乗り方を選択したのかもしれないが…。基本的には中距離の馬か。

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