フェブラリーステークス回顧

春秋ダートG1制覇。素直トランセンドの偉業を評価するべきだろう。時代のインデックスになる馬であることは間違いない。
ただ、それでも、と言いたい気持ちもどこかにはある。まずは、メンバー構成。今回のメンバーでダートG1(ダートグレードレース除く)を勝っていたのは、この馬トランセンドだけ。昨年、ダート路線を引っ張ったエスポワールシチーはもとより、G1で連対したグロリアスノアも不在。さらには、昨秋にJBCクラシック(Jpn1)、東京大賞典(Jpn1)と圧倒的な能力を示したスマートファルコンもパス。正直、軽量級のイメージは昨秋のジャパンカップダート(G1)同様に否定できなかった…。
そうなれば、勝ち方が問われることとなる。だが、今回のレースについては、あまりにもペースがトランセンド向きとなってしまった。今回の600m通過はなんと35秒7。これは過去10年で2番目に遅い時計。見た目は先行争いは混戦のように見えていたが、意外に落ち着いた流れ。しかも、この前が残りやすい馬場でというのも勘案すると、前の馬たちにとっては、かなり楽なレースとなったのは事実だろう。レースタイムも結局1分36秒台とかなり時計が掛かった。トランセンドにとっては、ここまで自分の競馬ができるとは思っていなかっただろう。マイルはやや短すぎるという懸念もあったが、極端なスピード勝負にならなければ、やはりこの馬は強いが…。マイラーの資質を問うレースではなかった。
道中のラップの推移を見ると、トランセンドの時計のワンペース。例年芝で加速がつく2ハロン目でも今回は11秒台。その後もほとんどペースは動かずに、12秒3から11秒2の間で変動するだけ。中距離でトランセンドがするような得意のパターンに、この距離でも持ち込めたのが最大の勝因だろう。玉砕覚悟で突っかかるような馬がいても良かったが…。ただ、他馬にそういう無謀な夢を持たせないのは、この馬のここまで築いてきた成績のおかげだろうが…。ともかく、G1という舞台は競走馬のセレクションの舞台でもある。それにしては、あまりにも強い馬に追い風を吹かせすぎたのではないか…。勝ったという事実は、素直に評価したいが、歴史の中でのトランセンドという馬の位置づけを確定させるにはやや時期が早い気もする…。
2着フリオーソは本当によく走ってくれた。地方競馬ファンとしては、感謝の一言だ。もともとマイルやや短いタイプ。さらに地方でのレースと違って能力が拮抗した馬たちの中での立ち回りが難しいという懸念もあったのだが…。ゲートは良かったが、芝部分で戸惑ってしまい一瞬で後方に後退。このペースで万事休すと思ったが、4コーナーに先団後ろまで上昇すると、直線ではデムーロ騎手が渾身のスパート。馬を懸命に励ましてこれまでのイメージと全く違う差し脚を発揮。最後の50mでは掲示板がやっと思われたが、脚が鈍った先行馬たちを一気に交わして久々の地方馬のダートG1での連対となった。前残りの流れで直線だけの競馬ながら2着は大いに評価していい。もっと言えば、まとも出ていつもの先行策ができていれば…。この続きは秋の大一番に期待したい。今のこの馬なら、また戦えるはずだ。成績に波のあるところもあるが、昨年から本格化の域に入って安定している。それと、この馬を手玉に取ったスマートファルコンも、これならと思ってくれたらよい。堂々と王者を目指してまた中央に戻ってきて欲しいものだ。
3着バーディバーディは池添騎手の完璧な騎乗だった。先団の一角で我慢。直線でもこの馬らしいしぶとい脚を繰り出した。最後は詰めきれずにフリオーソにかわされた。ジャパンカップダートに続いて最後の1ハロンの粘りが課題だが、3歳時に世代を引っ張る馬と目されたこの馬、軌道に乗った。直線、真っ直ぐ、ふらつかない走りは素晴らしい。池江郎調教師が残した財産。是非、この後のさらなる成長を期待したい。4着ダノンカモンはマイルはやや長いと思われたが、頑張った。直線での勢いは随一だったが、脚色鈍ってしまった。ベストは短距離だろう。5着マチカネニホンバレは絶好の競馬。先行してトランセンドを脅かしたが…。この辺りはG1での地力の差か。
14着に終わってしまった2番人気セイクリムズン。直線では絶好の手ごたえでいつも切れ味を発揮すると思われたが…。もう少し展開にメリハリがつくようなペースでないと末脚が生きない。その意味では、やはり短距離でのレースが合っているのだろう。

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