誰かがね

「誰かが運ばんと」被災地へ急げ 輸送トラックに同乗
モノが届かない。物流の現場で何が起きているのか。
群馬県高崎市の「群馬小型運送」が被災地へ物資を運ぶと聞いて駆けつけた。川手和義専務(35)はガソリン不足を嘆いていた。「うちはギリギリ回っているが、トラックを出したくても出せない同業者がたくさんいますよ」
19日午前9時過ぎ、4トントラックで出発。運転手の田中文雄さん(51)に「何を運ぶのですか」と尋ねると、「灯油缶らしい」。手元の伝票の品目欄には「灯油缶」とだけある。栃木県で積み込み、仙台へ向かうよう口頭で指示されたという。田中さんは震災直後の13日にも仙台に入った。「紙おむつやマスクを詰め込めるだけ詰め込んだ」
緊急車両の許可証を示して東北自動車道に入った。許可を警察から得ることも「当初はとても厳しく制限された」(川手専務)という。
午後1時前、栃木県那須塩原市の樹脂工場に着いた。灯油用ポリタンク400個が手際よく詰め込まれたが、灯油は入っていない。空っぽだ。
つい先ほど降りてきた西那須野塩原ICに戻ると、なぜか封鎖されている。田中さんは「仕方ねえなあ」とため息交じりにハンドルを切り、一般道で次のICへ急いだ。
通行規制のため東北へ向かう車はまばらだ。路面はところどころ波打ち、ひびが割れ、あちこちで応急工事が進む。時速80キロで走行し、段差を見つけるたびに減速した。対向車線は、東北から引き返す関西や九州ナンバーの消防車や救急車が目立つ。
福島県に入ると、田中さんの表情が硬くなった。社内には東北道を通ることを心配する声もあったが、福島原発から50キロ以上離れており、政府が発表した屋内退避地域の外だ。最後は「被災地への輸送を急ごう」と利用を決めたという。「気にしても仕方ない。誰かが運ばんと」。田中さんは気を引き締めた。
午後5時過ぎ、仙台市の出光東北支店に着いた。ポリタンク400個は倉庫に運び込まれた。高森健太郎支店長は「灯油を詰めて配ったり水置き用に使ってもらったりするため、ポリタンクをかき集めている」。大型車で灯油を運べない地域でも、ポリタンクを使えば少しずつでも小型車で配れる。市を通じて被災者にも寄付し始めている。
20日朝、仙台市内のガソリンスタンドに向かうと、ポリタンクを手に灯油を求める長い列があった。「2、3日前に配られた」という被災者とも出会った。私と一緒に来たものかどうかは分からないけれど、同じ真っ赤なポリタンクだった。

http://www.asahi.com/national/update/0320/TKY201103200294.html