私にとっての片岡義男という時代

ウォンチュー俺のっ、とついつい歌ってしまう。ことしも忘年会でカラオケ屋に行けば、たぶんそうなるだろう。「スローなブギにしてくれ」は、僕にとって強いジンみたいなものだ。詞は松本隆、曲と歌は南佳孝のものだが、映画にもなった小説の作者は片岡義男。僕たち70年世代は、思いつめた青春を通り過ぎて気持ちがふっきれたころ、バイクのスロットル音が聞えてくるような片岡ワールドに出会った。
野性時代」という軽やかな文芸誌で彼の小説を読んだ。FMの深夜放送で彼の静かな語りを聴いた。彼が編集にかかわった雑誌「宝島」からも情報を吸収した。米西海岸からカタログ文化が伝わってきて、思想よりも生活様式という時代が始まろうとしていた。
考えてみれば、片岡義男は僕にとって人生の師でもあった。難解なアンチロマンや前衛ジャズにとらわれて内向することには終止符を打とう。ミステリーを読みふけったり、カントリーウェスタンに酔いしれたりしてもよいではないか。そんなふうに肩の力を抜いて生きることを教えてくれたのだ。新聞記者のような仕事を続けてこられたのも、あの意識の切りかえがあったからだろう。

http://book.asahi.com/reviews/column/2012111500008.html

片岡義男南佳孝は私にとっては表裏一体。最初「あこがれのラジオガール」から南佳孝に入り、映画の『スローなブギにしてくれ』をへて片岡義男に至る。大学の4年間はまさに片岡義男の本を小脇にはさみ、南佳孝の歌を口ずさんでいた時代でした。
南は『モンタージュ』から『7th Avenue south』あたりまで聞き、片岡は角川文庫の赤背を全巻読破。どちらとも濃密な時間を過ごさせてもらいました。