テロとの戦い

「銃撃戦に巻き込まれた」 軍事作戦後、現地から電話
軍事作戦は終わったが、無事の確認が遅々として進まない。発生から3日目を迎えたアルジェリアの人質事件。巻き込まれた日揮社員の同僚らは疲労の色をにじませ、旧知の人たちはいらだちを隠しつつ、推移を見守った。
「銃撃戦に巻き込まれた」。軍事作戦後、初めて入ったという現地からの電話連絡は、1〜2分のわずかな会話だったという。
日揮広報・IR部の遠藤毅部長は18日午前7時50分、当初の予定を1時間以上前倒しして、横浜市の本社1階ロビーに現れ、未明から朝にかけての現地とのやりとりなどを伝えた。
「いままで現地への配慮を最大限に優先して発表を控えてきたが、そういう状況は過ぎた」。遠藤部長はゆっくりとした口調で切り出すと、「現地には78人が駐在しており、日本人は17人。現在、安否の確認がとれたのは3人」などと、これまで伏せていた関係者の人数を初めて口にした。
日本人17人は日揮やグループ会社の社員、プラント建設に協力している日本企業の社員。襲撃当時、プラント内にはフィリピン人やシンガポール人など61人の外国人もいたという。
日本人3人、フィリピン人1人の従業員から、日本時間18日未明から朝にかけて、相次いで本社や首都アルジェの事務所に電話があった。いずれも「無事です」などと報告。アルジェリア軍と武装勢力との銃撃戦を目撃した社員もいた。かすり傷を負った人はいたが、4人とも命に別条はないという。日揮は4人の名前について「安否が確認できてない家族の気持ちを考えると公表は時期尚早」として明らかにしなかった。
アルジェリア軍の軍事行動は終了したとされるが、遠藤部長は「軍事活動の後で大変な混乱が続いているようだ。情報も錯綜(さくそう)している」と不安げに語った。同社は連絡がとれた4人にアルジェ事務所への移動を指示。川名浩一社長が18日中に日本を発ち、別の役員1人、部長級社員1人とともにアルジェリア入りし、現地対応を指揮するという。
この日、本社には午前8時ごろから、社員らが次々と出勤。足取りは一様に重かった。
「自分も年中海外出張に行っているが、テロの恐怖を感じたことはなかった。現地で何が起きたのかまだ分からないが、とにかく無事でいてくれたら」。ある男性はこう話した。
日本人社員3人は無事とわかったが、大半の駐在員の安否は依然わからない。別の男性社員は「無事の確認はうれしいが、まだ多くの不明者がいるので」と伏し目がちに語った。女性社員は「まだ何とも言える状況では……」と言葉少なに通り過ぎた。
アルジェリア軍突入が伝えられてから一夜明けても確かな情報が入ってこない。ある男性社員は「救助されたとか亡くなったとかいろんな情報が出ているので正直よくわからない」と戸惑いの表情を浮かべた。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201301180349.html?ref=reca

「交渉は人質生む」「不要な被害」各国報道、突入に賛否
アルジェリアでの人質事件は、各国メディアも大きく報じている。人質から多数の犠牲者を出す結果となったアルジェリア軍による強行作戦については、さまざまな受け止めがあった。砂漠の中の隔絶された土地で起きた事件で、情報の乏しさに対する政府の不満やいらだちも伝えられた。
軍事作戦に一定の理解を示したのは英タイムズ紙。社説で、アルジェリア側の強行作戦を「テロと戦う国際的な取り組みを無視したもの」と批判しつつ、「交渉をしないとの姿勢は犠牲者の家族には冷酷に映るが、誘拐や殺害予告に安易に交渉をすることは、さらなる人質を生むことにつながる」とした。
同紙は、テロ専門家の「英国にとっては人質の安全確保が最優先だが、アルジェリアにとってはテロリストの壊滅が最優先で、人質救出は二の次だ」「国家の重要な財産であるプラントが攻撃されたことでメンツを守る意味もあった」との見方も伝えた。
アルジェリアの隣国マリへの軍事介入を続けるフランス。その正当化をまず意識した論調が目立つ。保守系フィガロ紙は18日付の社説で、人質事件を「戦争犯罪」と断じた。事件の発生が意味するものは、「イスラム(過激派の)テロを止めるため、マリでの戦いを正当化するものだ」とし、アルジェリア軍の強行策を論評することは避けた。
左派系のリベラシオン紙は18日付社説で「アルジェリア軍による急襲については不明な点が多すぎて、評価できない」としつつ、アルジェリアが仏軍によるマリでの軍事作戦に協力する意思を今後も示し続ければ、「(過去の歴史からの)転機になるかもしれない」と期待した。
一方で、米主要メディアには否定的な意見も。米紙ニューヨーク・タイムズは「作戦行動について事前に通告されず、米国などではアルジェリア政府が不必要に被害を拡大させたとの不満が巻き起こっている」と指摘。ワシントン・ポストは「リスクの高い作戦行動」と報じた。
情報の乏しさには、各国政府とも苦慮した。
自国民が人質となったと報じられたオーストリアのシュピンデルエッガー外相もAPA通信に「軍事作戦について何も聞かされていなかった」と怒りをあらわにした。主要紙は18日、事件を大きく報じたが、具体的な情報がほとんどない状態。外国メディアの報道で伝えられる犠牲者情報などから、「(人質の男性は)プラントのどこかに姿を隠しているのでは」などと期待半分の推測で伝えた新聞もあった。
世界中に多くの労働者を派遣しているフィリピン。海外の自国民保護は大きな課題だが、今回は具体的な公の情報が乏しく、テレビやラジオは淡々と事件の概要だけを報じた。
フィリピン政府は18日夕になっても現場にいた自国民の数や安否を確認できず、在リビア日本大使館からの情報に頼る始末。アビゲイル・ウォルター大統領副報道官は「報道が誤りだと信じたい。万一の場合、家族を支える準備はできている」と語るにとどめた。
自国民9人が事件に巻き込まれて安否不明とされるノルウェーは、アルジェリア側に詳細な情報を提供するよう強く求めた。オスロからの報道によると、ストルテンベルグ首相は17日、「9人についての信頼できる情報が何もない」といら立ちを表明した。ただ、アルジェリア軍の攻撃が正しかったかどうかについては「判断するのはまだ早い」と述べ、この段階での評価は避けた。
アイルランドの日刊紙「アイリッシュ・タイムズ」は、「各国政府は事件の対応で協調を試みたが、情報の多くが矛盾したり、信頼がおけないものだったりした」と混乱ぶりを指摘した。
やはり自国民が巻き込まれたと報じられたマレーシアでは、ラジ・アブドゥル・ラーマン外務次官が18日、報道陣に「外相間で連絡を取り合っている。アルジェリアが声明を出すと聞いているので、それを受けて声明を出す」と述べた。
アルジェのマレーシア大使館員は朝日新聞の電話取材に「襲撃された際、マレーシア人5人が日揮の従業員として働いていたと聞いている」と明らかにした。このうち2人については人質となったことを確認し、残り3人の行方が不明だったが、アルジェリア軍の作戦後の5人の安否は「まったく情報がない」という。
自国民の被害が報じられていない中国。洪磊・外務省副報道局長は18日の会見で、「事態の進展を注視している。我々は(武装勢力が)人質に取る行為に反対し、非難する」と述べた。アルジェリア政府が関係国に連絡せずに軍事行動に踏み切ったとされることについて何度も質問が出たが、同じ答えを短く繰り返した。
アルジェリアの軍事行動について、国営の中国中央テレビは「日本人の14人が安否不明」などと海外の報道を短く伝えるにとどめている。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201301180355.html?ref=reca