オウム?

家族から孤立した若者に過激派接近 ダッカ襲撃の背景
バングラデシュダッカで起きた人質立てこもり事件の実行犯の1人は、父親が外資系企業幹部という豊かな家庭に育ち、車の送り迎え付きで予備校に通っていた。急激な経済成長と都市化が一部の若者を孤立させ、過激化を招いたとの見方も出ている。
事件現場から車で10分ほどの高級住宅街。共同玄関を警備員が見張るマンションが、実行グループの1人、サメフ・ムバシール容疑者(18)の自宅だった。
父親で外資系通信端末企業の現地法人幹部のハヤト・カビールさん(53)が4日、取材に応じたリビングは、20畳を超える広さ。隣のダイニングルームには、サメフ容疑者とカナダに留学中の長男、大学教授の妻らの日常風景を写した写真パネルが飾られていた。
実行グループは、少なくとも7人いたとされる。そのうち少なくともサメフ容疑者ら3人は、こんな豊かな家庭の出身で、ダッカの同じ名門私立高校で学んでいた。現場で実行犯が外国人に英語で話しかけていた、との証言もある。
イスラム過激派に対するこれまでの説明が通らない」と指摘するのは、ダッカ大学のシャフィウル・アラム・ビュイヤン教授。従来は、貧困と宗教学校が過激思想の温床になってきたと説明されてきたからだ。
バングラデシュは過去10年、平均して年6%以上の経済成長率を誇ってきた。世界銀行の統計によると、貧困率も2000年からの10年間で約5割から3割へと大幅に改善した。一方で新たに問題となっているのが、急速な都市化や核家族化、収入格差の拡大など、社会構造の急激な変化についていけない一部の若者の存在だという。
ログイン前の続き「特に上流階級で、(社会とのつながりが希薄になって)疎外感を抱く若者たちの存在が問題になっている。家族や友人から孤立した若者が、過激派が引き入れようと狙う新たな対象になっている」
同教授は治安当局のテロ対策は機能していないとして、外国から支援を得ることに加え、家族や学校、宗教施設などが協力して過激思想の排除に取り組む必要があると指摘する。(ダッカ渡辺淳基、古谷祐伸、貫洞欣寛)
■動機は「貧困より思想」
富裕層と高学歴者が過激主義に走る傾向は中東でもみられる。
産油国サウジアラビアからは約2500人が、過激派組織「イスラム国」(IS)やアルカイダ系組織に合流したとされる。国別ではチュニジアに次いで2番目だ。サウジの1人当たりの国民総所得バングラデシュの25倍にあたる約2万4千ドルにのぼる。
英国を拠点とするウェブメディア「ニューアラブ」は5月、サウジ出身のIS戦闘員362人の経歴などが書かれた資料を独自に入手して分析。8割以上がメッカ、ジッダ、首都リヤドなど大都市出身で、約5割が高校か大学教育を受け、職業従事者は46%、失業者は26%だった。
サウジの専門家は「貧困や失業というより、ジハード(聖戦)思想や政治的不満がISに傾倒する動機になっていることが多い」と指摘する。
エジプトでは2013年、フランス語の学校を卒業した裕福なボディービルダーの男性がISに加わり、近況をネットに投稿して注目された。友人によると、この男性は12年にイスラム系政権が誕生して社会にイスラム主義の風潮が強まった際、女性とフリーセックスを楽しむようなこれまでの奔放な生活に罪の意識を持ち始めたという。
過激派の動向に詳しいエジプトの研究者アフマド・バン氏は「ISは国造りのために様々な人材をリクルートしているが、高学歴者に限っていない。過激思想に影響されやすい人物を求めている」と指摘した。(カイロ=翁長忠雄)

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