ええ名前やね、みずかぜ

瑞風、過疎地に夢運ぶ 停車駅の地元、おもてなしに知恵
6月から運行を始めるJR西日本の豪華寝台列車トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」は、近畿や中国地方の有名な観光地だけでなく、過疎や高齢化が進む地域も走る。地元を盛り上げようと、JR西は瑞風の立ち寄り駅をリニューアルし、自治体や住民はおもてなしに知恵を絞っている。
「地域の皆さんとともに沿線の魅力を発信する。従来の当社にはない役割を持った列車だ」。JR西の来島(きじま)達夫社長は、こう語る。
瑞風は京都・大阪、下関(山口県)を発着駅とし、倉敷(岡山県)や出雲市島根県)など13駅が停車駅になっている。実際に止まる駅はコースによって異なり、1日1回停車し、乗客は周辺観光を楽しむ。
JR西や自治体は、1日平均利用客が66人(15年度)の萩駅山口県)や同221人の東萩駅(同)も含め、全13駅を改装する。
昨年11月に完成した城崎温泉駅兵庫県)は外観を木造風にし、ベンチは温泉で使う湯杓(ゆしゃく)をイメージ。尾道駅広島県)は瓦屋根の2階建てにし、瀬戸内海を眺められるデッキを設ける予定だ。宮島口駅(広島県)も地元の木材を使って一部をリニューアルする。
沿線の観光地は、特別なおもてなしで歓迎する。
古民家が立ち並ぶ倉敷市倉敷美観地区では、常時公開ではない大原家の旧別邸「有隣荘」の内部を見学できる。鳥取市鳥取城内にある洋館「仁風閣」も、「普段はご覧になれない場所に案内する」(本城義照所長)という。
宍道駅島根県)を下車した客が立ち寄る雲南市の住民らも期待を寄せる。伝統芸能「出雲神楽」は年に数回しか披露されていないが、瑞風の運行が始まれば週1回に増える。市の担当者は、後継者の育成につながると歓迎している。
雲南市のまちづくりに取り組む地域自主組織「日登(ひのぼり)の郷(さと)」の佐藤弘之事務局長(64)は「瑞風のお客さんが来ると聞いた時はみんなで驚いた」。市内のかやぶき屋根の「室山農園」で、地元の主婦が田舎料理を乗客に振る舞うことになった。「今は自信を持って最大限のおもてなしをしたいと思っている」と話す。(広島敦史)
■利用者27人の無人駅にも停車
鳥取県東部の岩美町にある山陰線東浜駅。1日の利用客はわずか27人(2015年度の平均)の無人駅だが、日本海が目の前に広がる景観の良さから、瑞風の停車駅に選ばれた。駅舎は、待合室の四方をガラス張りにし、トイレやステンレスの屋根を新設する工事が進む。
この地区にはかつて、夏の臨海学校で阪神間から多くの子どもたちが訪れた。昨年まで民宿を営んでいた寺谷洋子さん(57)によると、1980年前後には民家の約半数にあたる60軒ほどが民宿をしていたが、今は6軒だけになったという。
住民と町は瑞風の運行を機に、駅前の保育所だった建物を改装し、イタリアンレストラン「アルマーレ」をオープンさせる。運営会社を立ち上げた住民らが、地元で採れた魚と野菜を使った料理を瑞風の乗客や観光客に提供する。店名はイタリア語で「海辺」を意味する。店内からは、日本海が一望できる。
寺谷さんは、レストランのフロアマネジャーに就く予定だ。「素人がほとんどだけど、地区を挙げて取り組みたい」と意気込む。岩美町の榎本武利町長も「全国の人が町を知り、ファンになるきっかけになれば」と期待している。
■鉄道と地方の新しい関係
瑞風の先例は、2013年に運行を始めたJR九州の豪華寝台列車ななつ星in九州」だ。JR東日本の「トランスイート四季島」は5月から北関東や東北を走り始める。
こうした豪華寝台列車の運行が相次いでいることについて、関西大の宇都宮浄人(きよひと)教授(交通経済学)は「地域で隠れていたものが日の目を見る。地元の人がおもてなしをすることで活性化につながる」と注目する。
乗客は30人程度と限定的だが、宇都宮教授は「見放されていた駅が魅力的になれば、車に依存していた人が鉄道を見直すきっかけになり、家にこもっていた人も列車で出かけるようになるかもしれない。地域にもJRにもメリットがあり、鉄道と地方の新しい関係を築く好機だ」と話す。
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トワイライトエクスプレス瑞風〉 大阪―札幌駅間の定期運行を2015年3月に終えたJR西日本寝台列車トワイライトエクスプレス」の名前を受け継いだ豪華寝台列車。10両編成で客室6両(16室、最大34人)と展望車2両、ラウンジカー、食堂車がある。
京都・大阪―下関駅間を山陽、山陰側のいずれか片道で巡る1泊2日のコースと、京都・大阪駅を出発して山陽、山陰両方を周遊する2泊3日のコースがある。1日1カ所で途中下車して観光する。観光地に立ち寄るのは、山陽コース(下り)=倉敷、岩国(18年春までは南岩国)▽同(上り)=宮島口、尾道▽山陰コース(下り)=城崎温泉、萩・東萩▽同(上り)=出雲市鳥取▽山陽・山陰コース(周遊)=岡山、宍道・松江、東浜の各駅。
1人あたりの料金は25万円から。1両1室のスイートは56万〜125万円。運行は6月17日から。9月分までの予約を1月末まで受け付けている。

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いつか乗らねば。