おそろしい国、そしておそろしい弟

博識・温厚…素顔の金正男 旧知の記者に絵文字LINE
北朝鮮金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄にあたる金正男(キムジョンナム)氏が、13日にマレーシアで殺害された。日本も訪れていたとされる正男氏とは、どんな人物だったのか。北京特派員時代に正男氏に接触し、その後10年近く取材を続けてきた本紙の峯村健司記者が、正男氏の人となりを振り返った。
春節、おめでとう!」。正男氏と最後に無料通信アプリ「LINE」でやりとりをしたのは、昨年2月だった。ワシントン勤務になってからも、正月などには季節のあいさつをしていた。正男氏は、かわいらしい絵文字も交えながら、私の健康や家族のことをいつも気遣ってくれた。
最初に正男氏に接触したのは、2008年ごろ。北京特派員として、平壌発の飛行機から降りてくる要人を北京の空港で待ち構えている時だった。野球帽をかぶりゲートから出てきた正男氏に、声をかけた。
その後、正男氏の知人らを通じて少しずつ連絡を取り始めた。正男氏が家族と暮らしていたマカオに出向いて食事を共にすることも。正男氏の要望で、落ち合うのは自宅近くの和食レストラン。話に夢中になって杯が空になると、先に日本酒をつぎ足してくれるのは、正男氏の方だった。接客する女性店員にも冗談を言ってからかう、おちゃめな一面もあった。
話題は北朝鮮の政治だけではなく、経済や環境問題まで幅広かった。正男氏は滑らかな英語を操り、博識と客観的な視野には驚かされた。日本の情勢について尋ねられることも少なくなかった。正男氏がかつて行ったことがあるという東京のすし屋やバーの話をする時は、目を細めていた。
こうしたやりとりについて、これまで正男氏の身の安全を考慮して、公開することは控えてきた。
今月13日、死亡との情報を受け、慌てて電話をした。呼び出し音が鳴り続けるだけで応答はない。メッセージも未読のまま。米大統領選とその後の忙しさにかまけて、今年の正月のあいさつのメッセージを送らなかった自分を悔いた。(ワシントン=峯村健司)

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