有馬記念回顧

日本の競馬はまた1つ階段を上る。ダイワスカーレットが呼ぶ、新しく力強い風に乗って。
タイム云々は関係なし。「ダイワスカーレットv.s.その他の馬」というレース。安藤騎手、逃げという誰にも邪魔させずこの馬の「持続力のあるスピード」を発揮させる作戦。いつも通り、前半から小気味良くラップを刻み1100m通過が66秒1のハイペースに後続を引きずり込み、この馬のペースで走ることにより他馬を「自然」に潰していく。しかし、ライバルたちは傍観しない。勝負を挑みに掛かる。各馬が積極的に勝負を挑んで行ったことは安藤騎手からすれば「思う壺」だったかもしれない。4角では、サムソン、キングスの手ごたえは怪しくなり、スクリーンヒーローも直線で力尽きた。しかし、結果的には非常に見ごたえのあるレースとなったことを各騎手に感謝したい。
前半ハイペースで後半もほぼ11秒台でまとめて2500mを2分31秒台で逃げ切るのだからこれではどの馬も追いつけないのは当然。いつものように捕まりそうで捕まらない「蜃気楼」ペースで最後まで逃げ切った。ラップタイムの推移自体は、前半がやや速くなり中間で緩んでまた加速していくという平年と同じ。ただ、今年のすごいところは全て1頭の馬のタイムであることだ。レースのラップタイムは当然、その区間で先頭を走っている馬のものであり、必ずしも同じ馬とは限らず、前半の高速ラップを刻んだ馬は大概逃げ馬でバテてしまい、後半のペースアップ時のタイムを刻んだ馬は後ろで脚をためていた馬というケースが多い。しかし、ダイワスカーレットは一貫してレースの全てを1頭で表現してしまう、まさに今年の「主演女優賞」はこの馬だろう。
ディープインパクトとは違うタイプだが、この馬も歴史に残る名馬。脚質的に先行して押し切れるのだから、スタートさえまともならまず負けない安定感は、歴代のどの時代を代表する馬にはなかった特徴だろう。「負けにくい」タイプで、名馬と呼ばれる馬同士の強さの比較をした場合、客観的な能力値の比較での優劣はともかく、レースでの勝負ならばこの馬が1着となるだろう。ウオッカというもう1頭の、稀代の名牝が同世代にいることは競馬界にとっても大きな自信となるだろう。つまり、これだけのスーパーホースが2頭いるということは、決して彼女たちが突然変異的な偶然の産物ではないことを示している。来年は2頭とも海外を視野。日本の競馬界は、これだけの良質のサラブレッドを確実に生産できるようになったのだ。このような時代を競馬と共にできる幸せが我々ファンに与えられたことに感謝。
さて、繰り返すがレースはダイワスカーレットの強さばかりが目立ったが、負けた馬も天晴れ。シンボリの冠名で有名な故和田共弘氏には「競馬は勝者だけではなく敗者の存在によって成り立っている」という至言を残したが、まさにその通り。今回の敗者はただの引き立て役ではなかった。3角過ぎから直後でマークしていたメイショウサムソンが動き出し、アサクサキングスも上昇。フローテーションも外から先団へ。それらを見ながらスクリーンヒーローの手も動く。各馬の底力勝負は見ごたえ十分だった。力をぶつけ合う夢のレース、グランプリにふさわしいレースだった。
これで引退のメイショウサムソン武豊騎手になって慎重な競馬が多かったがこの日はダイワの直後で底力勝負に応じた。さすがに全盛期の力はなくなっていたか4角でバテ気味になり8着。しかし、勝ちにいっての清清しい負けだろう。この敗戦で評価が揺るぐことはない。アサクサキングスも最下位に敗れたが、敗戦が続いていたところ、この馬の長所であるスタミナを武器に力をぶつけに行った結果。納得の負けだろう。さて、ただ1つ残念だったと言えば前回勝者マツリダゴッホのレースぶりは残念。スタート後に行きたがってしまい競馬にならなかった。3角過ぎからのダイワスカーレットの底力消耗区間でまともに立ち向かえるのは、この馬だけと思っていただけに、もしまともであれば逆転は無理でも、激しいスパート合戦のデッドヒートが見られていただろう。12着という結果に終わってしまった。
さて、着順上位馬についてはコメントを要しない。人気を集めた先行馬が堂々たる勝負を挑み力尽きた間隙を突いて差しただけの話。もしダイワスカーレットが不在の有馬記念であれば、出番はなかったと思う。4着ドリームジャーニーは、長く脚を使うというより東京、阪神のように600mぐらい限定で脚を使う競馬場が合っているのではないか。

http://archive.mag2.com/0000150903/index.html

スカーレット圧勝!凱旋門に挑戦も
夢は世界へ-。混戦の2着争いを尻目に、1番人気のダイワスカーレットが圧倒的な強さを発揮。1馬身3/4差で逃げ切り、71年トウメイ以来37年ぶり史上4頭目となる牝馬Vを達成した。レース後には来年の海外遠征プランが浮上。詳細は検討中だが、仏G1・凱旋門賞などを候補に、目標を3戦に絞る予定だ。日本競馬界が誇る希代の名牝が、世界の超一流馬に真っ向勝負を挑む。
スピードで、力でねじ伏せた。牝馬として37年ぶり、ダイワスカーレットが年末のグランプリを制した。好スタートから、何も無理することなく先頭へ。4コーナーで直後に殺到したライバルを尻目に、直線は余裕を持ってスパート。2着アドマイヤモナークに1馬身3/4差をつける完勝だった。「なんて言ったらいいのか…。(レース前から)きょうのダイワスカーレットは終始、緊張するわけでもなく、のんびりするわけでもなく、遠くを見つめてレースをイメージしているようだった」。松田国師は、その精神力の強さに触れながら、しみじみと勝利の味をかみしめた。そしてエスコートした安藤勝の好騎乗を絶賛した。「いいレースをしてくれた。素晴らしいペース配分で、位置取りもナイス。完ぺきな仕事ぶりでした」。7カ月ぶりだった天皇賞・秋は、レース前からテンションが高く、厳しい流れにもなり鼻差2着に敗れた。この中間はテンションが上がらないように工夫して調整。馬場入りの練習なども行った。執念が実った今回は後続に影すら踏ませない完勝劇。昨年2着のリベンジを果たした。08年のラストランで日本の頂点に立った。そして09年は、世界をターゲットにする。有馬記念のレース前から、来年の海外遠征を強く意識していた松田国師。「相当強いパフォーマンスをしないと」-。胸の内にあるハードルは、高めに設定されていたが、自ら“ゴーサイン”だ。「まだ、オーナーの了承は得ていないが、海外なら3戦できる。3つ勝ちたいですし、そのためには、国内で1戦するか、海外の前哨戦を1戦するか、今はリサーチしています」。世界の超一流馬との対決へ準備を進めていく。これでG1・4勝、通算成績も12戦8勝、2着4回。最強牝馬世代の代表として、世界へと雄飛する。生産者で社台ファーム代表の吉田照哉氏(61)は「ドバイ遠征の話もあるけど、わたし自身は欧州のG1に行きたい。昔、馬を連れて行ったときに鼻で笑われた悔しさが忘れられないんです。サンデーサイレンス系の馬で欧州G1を勝ちたい」と力強く話した。世界最高峰のフランス・凱旋門賞などを視野に、遠征を模索していく。「この世代の牝馬はたくさんの牡馬と戦って結果を出している。強い世代でもまれてきたのが、この馬の強さなのでしょう」と松田国師。来年はその速さで、強さで、たくましさで世界を魅了する。

http://www.daily.co.jp/horse/2008/12/29/0001634130.shtml