オールカマー

中山の王様、マツリダゴッホが復活の3連覇。もはや恐れ入ったとしか言いようがない。横山典騎手が「ひらめいた」と言う、まさかの逃げの作戦。この馬の好走のイメージは、3角からの一気のマクリ。中山外回りの緩やかな向こう正面から4角へのカーブをスッと上がって、直線でも脚切ってしまう長い脚。これが最大の武器。しかし、このところはこれが全くの不発。近走の負けは作戦云々とい
うよりも、力の衰えとも解釈できうる負け方だっただけに、この勝利は単なる1勝、あるいは同一重賞3連勝という偉業以上に、この馬のキャリアにとっては大きな意味を持つ、再び一線級として名乗りを挙げる価値ある1勝だ。
休養明けとはいえ、グランプリホースのエイシンデピュティという逃げ馬がいただけにある程度、有力馬の隊列の順序は戦前から予想できたのだが、それでも大外枠から横山典騎手はゴーサイン。スッと一周目のスタンド前で外からハナに立つ。刻んだペースは、淀みのない一定のペース。12秒台の前半でスイスイと飛ばし続ける。ただ、1000m通過が61秒ジャストと決して無謀なペースでは
ない。この馬の長所は前述のように「長い脚」。いわば、いつもは3角から使う脚を、レースの最初から使い始めてしまったような走りだったが、これがこの馬には合っていた。淀みのないペースで飛ばした結果、単純比較の困難さは別としてもなんと勝ちタイムは、今回が最も速い時計。後続が気付いたときには、もう既に届かない位置。ドリームジャーニー、シンゲンが33秒台の脚で追いかけた
が間に合わなかった。
結果、一見、奇策と思われるレースでも「馬の長所」を最大に発揮させるためには、最高の作戦だったといえる。騎手の仕事とはまさにこれだ。横山典騎手の人馬一体、痺れる騎乗だった。グランプリホースとしての豊かなスタミナ、そして地力の高さを信頼しての見事な選択だった。ただ、問題はこれを今後もこの馬の作戦として採用し続けるかどうかというところ。今回は逃げ馬としてはノーマー
クだっただけに、うまくいった「奇策」だったとも言える。ただ、分かっているけど捕まえられないという類の、絶対的逃げ馬にはなれないだろうし、またなるつもりもないだろう。あくまで精神論的な言い方で個人的には好みではないが、この勝ったという事実が馬にとって、何かのきっかけになれば、より意味のある1勝になるはずだ。
さて、敗れたドリームジャーニー、シンゲンはマツリダゴッホにうまくしてやられたという部分もあるだろうが、斤量の差、そして力の差など、様々な要因があってのこの結果だろう。まず、ドリームジャーニーは中団気持ち前目の位置取り。斤量を背負っているだけに、あまり極端な位置取りで後ろから追いかけるのは辛いところだっただけに妥当な位置取り。一方、シンゲンはそのドリームジャーニーにマークをされるように同位置の内側。ちょうど藤田騎手が殊勲を挙げた前週のブロードストリートレッドディザイアのような位置関係となった。互いに牽制をし合いながら小気味よく飛ばすマツリダゴッホを視界に置きながらも、なかなか両者動かない。通常の中山中長距離であれば、3角あたりでペースが上がるが今回はほぼ一定のペース。下手に動くと脚がなくなる可能性もあり、動くに動けないというところでもあったか。結果として、これがマツリダゴッホを利することともなったのだが…。直線に入ってからの叩き合いとなり、33秒台の脚を共に繰り出し、ほぼ同じタイムで入線。ドリームジャーニーからすれば斤量、シンゲンからすれば体重増が理由にはなるだろう。加えて、坂のあるこのコースで直線の叩き合いで33秒を出すというのは最後の2ハロンはかなりの時計が出ているはず。秋に向けて、共に能力の再確認ができたのは収穫。シンゲンは賞金加算をしたかったところだろうが…。

http://archive.mag2.com/0000150903/index.html

レース映像はこちらエイシンデピュティは最初調子良かったのですが直線入ってズルズルと後退し14着のブービー