菊花賞回顧

リーチザクラウンが気分良く引っ張った結果、過去10年で2番目に速い時計での決着。ただ、最初の1000mが60秒を切るペースではあったが、例年と比べて決して突出して速い時計ではない。カギは次の1000m。リーチザクラウンにとっても苦しい区間となった。例年1000m通過後、逃げ馬は一旦12秒台にラップを落とし、さらに1200mから1400m通過地点あたりで 13秒台へと減速しタメをつくる。しかし、今回13秒台のラップになったのは、1800m〜2000mの区間。これは、武豊騎手をやはり同じく鞍上に配した06年3着アドマイヤメイン以来の「遅いペースダウン」。スタートから長い区間で速い流れを続け、なかなか脚をためられない「逃げ」となった。ただ、武豊騎手としては、スタミナに疑問符はつくものの、アドマイヤメイン同様に行ききった 方がいいという判断なのだろう。結果的には5着に敗れたが、この距離でも惨敗はしなかったということは立派。能力は示した。
しかし、このよどみないペースは、リーチザクラウン自身の「力試し」のようなものでレースにはさほど影響を与えなかった。後続は慌てず追走。仕掛けのタイミングも各馬冷静。勝ったスリーロールスは、好スタートからインで身を潜めて先団の一角。圧巻は3角過ぎからのペースが速くなる坂。他馬が仕掛けつつ前との差を詰めていく中で、この馬は持ったまま。ラスト800〜400mで 11秒台にペースが上がったところでも仕掛け待ちで追走。この時計は逃げたリーチザクラウンのものであり、もっと速いペースでの加速となった。ここまで、大逃げを打ったリーチザクラウンとの差を縮めるためにある程度脚を使っていた上に、この3角からも脚を使わされた馬たちの多くは体力を消耗。最後のひと踏ん張り、つまりスタミナが例年以上に問われるレースとなったが、スリーロールスは余裕を持って直線に向くと、まだ残していた脚をここで爆発。一気に先頭へ出ると、最後はさすがにヨタヨタになり外によれたがフォゲッタブルの猛追を凌ぎきって最後の一冠に輝いた。
どの馬にとっても、この距離は未知数だったがこの馬には特に、こういうスタミナが求められる展開で強いのだろう。とにかく無理をせずに流れに乗れ、緩急のあるラップについていけるスタミナは素晴らしい。母父ブライアンズタイムという血統背景と相まってこれぞステイヤーというイメージの馬が久々に出てきた印象。瞬発力とか、スピードというのではなく、 本当に「スタミナ」で勝負するタイプ。今のスピード重視の日本競馬では珍しい部類に入ると思うが、1つの輝く「個性」を持った馬が出てきたことを歓迎したい。
2着フォゲッタブルは、途中からスリーロールスに目標を絞り、直後を追走。うまかったのは最初の3角。セイウンワンダーフォゲッタブルの前にあいたスペースを奪いに来たが、ここで前に入らせずに自分のスペースを守りきった。このおかげでインをロスなく回ることができ、レース後半ではスムーズに追い出すことができた。最後は僅かに勝ち馬に遅れたが互角の勝負。距離が伸びてから一気に素質開花。1、2着馬はダンスインザダーク産駒。父の持っていた長い区間での脚が伝えられているのだろう。
3着セイウンワンダーは、距離限界説が付きまとっていた馬だが、結果的にはこの3000mでも馬券圏内。折り合いもつき道中はスムーズ。1、2着馬とほぼ同位置を走ったが、最後の直線でフォゲッタブルに外へと押しやられ、また自身もバタバタとなり外へとコースロス。よく伸びたが…。最後までフォゲッタブルが目の上のタンコブとなったレース。
菊花賞はもともと極端な位置取りの馬は勝てないレースだが、イコピコはよく走ったといえるだろう。鋭く追い込み4着。脚をためての末脚勝負は特徴を活かした作戦。ただ、ダラダラと脚を使わされるようなレースではなく、東京、阪神のような長い直線限られた区間での叩き合いが合っている。距離もやや長かった。今回は勝つために求められる能力が持っていた能力と違っていただけ。 素質は高い。
15着に終わった皐月賞アンライバルドは、距離が全て。道中の折り合いの課題ももちろんだが、この馬のいいところは一瞬の切れ味で、こういう長くペースが勝負どころで上がっていくレースは合わない。マイルから中距離がベストなのではないか。その観点ではダービー、神戸新聞杯、このレースとここのところ、ベストの条件で走っておらず、 皐月賞時点での高い評価は中距離に限ってみれば維持してもいい。次は期待。
結果的には、上位5頭のうち3頭が春のクラシックに不出走だった馬。長距離という特殊性を勘案する必要はあるが、今年の3歳牡馬路線は確たる中心を欠き、結局最後まで混戦のままだった…。この世代の代表馬とはどの馬か、顔となる馬がいない結果。ただ、これを過度に悲観する必要はないかもしれない。「代表馬」がいないことは必ずしも、世代のレベルの評価に影響するとは限らない。これだけ条件が違うレース3つを同じ馬が上位を占め続けることは、ある意味では必然的に不可能とも考えられる。皐月賞でのアンライバルド、ダービーのロジユニヴァース、そして菊花賞スリーロールスと、結果的にはそれぞれのレースに最も合った能力を持った馬が勝ったと解釈できる。レベル云々というよりも、個性がはっきりとした馬が揃った世代と表現できるのではないだろうか。

http://archive.mag2.com/0000150903/index.html

非情になり切れず…ワンダー3着/菊花賞
外から追い上げた6番人気のセイウンワンダーが、3着に入った。2歳王者の意地を見せつけた形だが、福永はさすがに悔しそうな表情。「2周目の1〜2コーナーでフォゲッタブルを内に入れてしまった。その差かな…。非情になり切れなかった」と勝負を分けたシーンを振り返った。

http://www.nikkansports.com/race/news/p-rc-tp0-20091026-559471.html