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刑場公開ピリピリ厳戒 バス目隠し、執行ロープはつけず
固く秘密が守られ、拘置所内でも限られた職員しか立ち入らない死刑の執行場所が報道機関に初めて公開された。千葉景子法相が「国民的議論の契機に」と打ち出して実現したものだが、死刑にかかわる職員の複雑な思いもあり、厳重な警戒の中での「限られた公開」となった。
午前8時40分ごろ、東京・小菅の東京拘置所の敷地に入ると同時に、21人の記者は携帯電話を使わないよう指示され、取材が終わるまで外部との一切の通信が制限された。
「刑場内の機器には触らない」「整然と無言で見ること」。取材上の注意すべき点などについて説明を受けた後、法務省が用意したマイクロバスで拘置所内の刑場のある建物に向かった。黒い窓ガラスから外は見えず、拘置所内のどこに向かっているのか分からなかったが、所内を約2分間走り、地下のような場所に止まって降ろされた。
刑場の位置は、同省の内部でも「厳秘」とされている。2005年に大阪市の弁護士が、大阪拘置所の刑場の図面の情報公開を求める訴訟を起こした。このときは「図面が公開されると死刑確定者の奪取や死刑執行の阻止などの計画を容易にする」という国の主張が認められ、公開は認められずに最高裁で確定した。
今回も法務省は、マイクロバスの移動ルートを上空から取材されないよう、報道機関に対して、拘置所上空や周辺にヘリコプターを飛ばすことの自粛を求めた。
公開された刑場に、死刑執行の際に設置されるロープはなかった。「通常の管理状態では備え付けていない」というのが非公開にした理由という。その代わりに法務省は、ロープは直径3センチ、長さ約11メートルだと明かした。
目隠しをされた死刑囚が、ロープを首にかけたまま立たされる踏み板は公開したものの、開閉する様子は見せなかった。「開閉時に非常に大きな音がするため、(接見に訪れた人など)いろいろな人が拘置所を出入りする時間帯に、そのような音を流したくないと考えた」と法務省は理由を説明した。
千葉法相が7月28日に2人の執行を見届けた「立会室」から、踏み板までの距離は、ガラス越しで約8メートル。その間には、大きな吹き抜けの空間がある。見下ろすと、死刑囚がつるされて絶命するコンクリート打ちっ放しの空間が見えた。立会室には階段があり、下りることができるようになっていた。この「階下の部分」も今回、立ち入りを厳重に禁じられた。「大臣も立ち入っておらず、大臣の目線をもとに公開することで十分だ」というのが法務省の見解だ。「遺体があったところに土足で踏み込まれるのは困る」という刑務官らの「感情」にも配慮したという。
東京拘置所には、1995年の地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教元代表松本智津夫死刑囚や、71〜72年に連合赤軍事件を起こした永田洋子死刑囚など56人の死刑囚が拘置されている。死刑囚が暮らす「房」と刑場との位置関係も公開されなかった。
刑場の公開は約20分間。「刑場は死者の魂がいる厳粛な場所」。法務省の職員は事前にそう説明し、刑場内での質問は一切受け付けなかった。

http://www.asahi.com/national/update/0827/TKY201008270244.html