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池江泰郎師胸張って有終/フェブラリーS
名トレーナーが最後の大舞台に上がる。7冠馬ディープインパクトや4冠馬メジロマックイーンを世に送り出した池江泰郎師(69=栗東)は28日で定年引退が決まっている。最後のG1となるフェブラリーS(ダート1600メートル、20日=東京)にはバーディバーディ(牡4)が出走。こん身の仕上げで臨む。
故郷の宮崎を飛び出してから56年にも及んだ池江泰郎師の馬人生が、このフェブラリーSで大きな区切りを迎える。バーディバーディを無事にレースへと送り出せば、もう管理馬をG1に出走させることはない。「戦争の真っ最中に生まれ、物心ついた時には父親の戦死報告書が届いていた。それでも、中学を何とか卒業するとボストンバッグひとつ抱えて夜行列車に飛び乗ったんだ。母親が3000円だけ渡してくれて、それを握り締めながら2日かけて東京の馬事公苑に向かった。あれが始まりだったんだなあ。まだ、終わりという気がしないよ」。馬場を周回する管理馬を見つめながら、いつもと同じ穏やかな口調で振り返った。
G1・21勝、JRA重賞70勝。4冠馬メジロマックイーンや7冠馬ディープインパクトなどで近代競馬に一時代を築いた名トレーナーも、騎手養成学校に入るまでは馬に触ったことすらなかった。当然ながらコネもない。同期の騎手が次々と初勝利を挙げるのを横目に見ながら、毎朝の調教に加え洗濯や掃除、畑仕事に草刈りまでこなしてじっと好機を待った。デビューから7カ月後にようやく初勝利。「そりゃあうれしかったよ。あの時のことは今でもよく覚えている」。最終的には3275戦368勝。重賞も17勝を挙げたが、その始まりは辛抱の連続だった。だからこそ、78年に調教師に転身しても、当時の気持ちを忘れずにまっすぐ馬と向き合ってきた。
管理馬にはかなりの攻め量を課す。その内容も非常に濃く、たとえ条件戦であっても楽はさせない。「あの時やっておけばよかったと悔いを残したくはない。G1だろうが未勝利だろうが常に全力投球だよ」と再び笑顔をつくった。調教師として通算6758戦843勝。意外にも全国リーディングの経験はないが、固い信念の下に多くの勝ち星を積み重ねてきた。
そんな馬一筋の人生が28日で区切りを迎える。「28日までは調教師だけど、時計が夜中の12時を回ったらただのおじさんだ」と豪快に笑う。27日の中山競馬場がラストラン。最後はディープインパクトと同じ場所で迎えることとなった。引退セレモニーなどは行わない意向という。「新たな人生でも何らかの形で馬に関わっていたい。育てた馬の将来を見届けたいし、こういう時期だから世の中の興味を競馬に向けていきたい」と第2の人生に向けて歩き出す。
その集大成として、バーディバーディには悔いのない仕上げが施された。「こんなにハードな調教をしているのに、僕の思いに応えて頑張ってくれた。今までで一番いい状態で競馬できるのはうれしい。胸を張って東京へ行くよ」。泣いても笑ってもこれが最後のG1となる。地下場道から本馬場に出る最後の一瞬まで、トレーナーは全力投球を続けるつもりだ。

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