有馬記念回顧

あらゆるエピソードが交錯するグランプリ。突然の降雪はまるで競馬の神様による歴史の幕引きと幕開けの合図のようだった。ブエナビスタが去り、堂々たる四冠馬、オルフェーヴルの時代が始まった。
激戦が予想された有馬記念。1番人気オルフェーヴルと2番人気ブエナビスタの二強ムード。しかし、伏兵は多く馬券的には非常に難しいメンバー構成。潜在能力からすれば、キングトップガン以外、どの馬が勝っても、連対しても納得ができるレースだった。しかし、ペースは想定外と言えるほどに極端なものになった。キングトップガンが敢然と力を出し切る競馬をするのではないかと思っていたが、控える競馬で行ったのはアーネストリー。しかし、かなりペースは落ち着く。レースタイムは2分36秒と、2レース前に行われた1000万下のグッドラックハンデキャップよりも3秒近く遅い決着となったほど。道中のペースもかなりのスロー。1000m通過は推計で63秒台。さらに1100m通過は70秒8と超がつくスローペースとなった。
人気のオルフェーヴルは、ややスタートで立ち遅れ。先団からいい脚で安定感を見せていたが、今回は久々に後方からのレースとなってしまった。1周目のスタンド前では後方2番手という位置取り。一方で、ブエナビスタは最内枠を引いたこともあろうが、引退レースで悔いを残さないレースという思いもあったか、前々で先団のインの位置取りをキープ。展開面では後者に利がある流れとなった。さらにペースは2周目に入ってますます減速。14秒台が2ハロンも続くという前代未聞と言える超超スローペースとなった。各馬、こうなるとどう動くかが難しいレース。個人的には思い切りのいい後藤騎手あたりがペースを壊しに掛かるとも思われたが、ローズキングダムはこの展開で後方一気を狙うという、自身の現状を打開するための作戦に賭けていた。また、昨年の例があるヴィクトワールピサデムーロ騎手もこの候補だったが、昨年と違い道中、もともと2番手という好位置。ここから敢えて動く必要もないということだったのだろう。そしてまたブエナビスタが近くにいただけに、自分が先に動くことに慎重になったのだろう。結果としてどの馬もペースを動かしに掛からずスローのまま。14秒台が続いた後、1500〜1700mの区間でも13秒台フラット。ギリギリまで楽なペース進んでいった。
レースが動いたのは、残り1000m。残り1000mのタイムは結果として57秒9と速い時計。この長い区間での上がりの勝負となったこのレース。長い脚が使える馬がフィットする流れとなった。こうなると単純な「瞬発力」勝負とは異なってくる。直線が短い中山だからこそ、中山のスローペースでは東京、阪神とは違い、ペースアップのポイントが若干早くなるため、長い区間での脚比べとなる。位置取りという意味ではブエナビスタオルフェーヴルに対してアドバンテージをもっていたと言っていいだろう。しかし、この長い区間での脚はブエナビスタは必ずしも長所ではない。この馬の持ち味は、東京でも見せる残り600mの切れ味。1000m区間でのペースアップを先団で耐え続けることはできなくなはないが、ベストパフォーマンスができる条件ではない。一方で、この点で秀でていたのがオルフェーヴルだった。後方待機のオルフェーヴルだったが、兄ドリームジャーニー同様に池添騎手は腹を括って外を回り中団に上昇。直線では外から一気に末脚炸裂。追い縋るエイシンフラッシュ坂上で捻じ伏せると兄弟制覇、四冠目を達成した。
着差は僅か。派手さはないが古馬と初対戦ということを考えれば合格点だろう。今回は後方からのレースとなったが、タメて切れた。先行馬に有利な展開に一見思われながらも、内実は厳しい後半のペースアップ。先行馬にとって厳しい流れとなり、それもまたこの馬に味方しただろうが、逆にこういうレースで前に行って凌ぎ切るだけの地力を見せればまた評価は上がっただろう。だが、むしろスローで折り合って、かつての形である「差す競馬」もできるという点は自在性をアピールすることとなった。どういう展開でもどういう位置取りにいても大きな展開のアヤや、コース取りの大きな不利がなければ、この馬は負けないのではないだろうか。デビューからエリートだったわけではないこういう馬が、ここまで生まれ変わるというケースは、史上稀に見るのではないか。来年は、間違いなく世界で戦う馬になるはず。ここまで負ける姿が想像できない馬もいないだろう。楽しみ。
2着エイシンフラッシュルメール騎手がジャパンカップで乗りたいと悔やんでいたが、今回宿願叶い連対果たした。この馬は前目の位置取り。気性的な心配もあったが、ここは折り合って全体がペースアップした区間でもこの馬は持ったまま。スタミナが生きた。タメた脚をルメール騎手、絶妙のタイミングで繰り出したが一歩及ばず。2着した天皇賞・春(G1)も長い区間で脚が必要なコース。ダービー(G1)でもスローで上がりの勝負だった。こういうメリハリのある展開で脚をためる競馬がベストなのだろう。展開では今後もはまる可能性がある。上位馬の多くはバテた先行馬に替わって台頭した後方待機の馬たちだった。トゥザグローリーは2年連続の3着。今年は春以降、いいところがなかなか見せられなかったが…。道中はオルフェーヴルの前。勝ち馬と同タイムの上がり。福永騎手がインにこだわって、また直線ギリギリまで脚をためた。勝ちきるには難しい競馬となったが、不振を抜け出すための手がかりを掴むレースとしては収穫があったのではないだろうか。4着ルーラーシップは、最後方からの競馬。こちらは最速の上がり33秒2で突っ込んだが。久々で今後に繋がる競馬だった。昨年は中団前で粘りきれなかったが、この距離ではこういう競馬があっているのだろうか。5着トーセンジョーダンはこの2戦で成長力見せたが、こちらも昨年と同じ着順。極端な上がりの競馬は向いていない。ここまで極端にメリハリの流れは不向きだろう。
ブエナビスタ掲示板を国内では初めて外す惨敗。最後を飾れず。展開は不向きだったが、ここまで負ける馬ではないはず。ちょうど潮時だったということではないか。前走見せたあの根性は素晴らしかったが、今回は4コーナーで既に失速。疲れもあったか。ともかく、お疲れ様と言いたい。8着ヴィクトワールピサは、状態面はまだ完全ではない。自分で動いて勝ちに行く競馬をしても面白かったが…。現状馬の力が付いてきていないだけに仕方が無いか。9着レッドデイヴィスはやや堅さのある走り。長距離ではまだ難しいか。10着アーネストリーは、逃
げ馬のペースにはしたが、この馬はスピードも活かしたいタイプ。平均的なペースで逃げたいところだった。

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