災い転じて福となす

柳本・大阪市教委顧問「暴力で強化は指導者のおごり」
■理不尽な経験
暴力に頼ってしまうのは、短期間で成果をあげなければと思う時です。僕は全日本代表としてモントリオール五輪に出場後、新日鉄の選手兼監督になり優勝。期待され、35歳で地域リーグ日新製鋼へ。「日本リーグに上がり、短期間で日本一にならなければ」というプレッシャーで、思うように動かない選手に手が出たこともあった。
桜宮のバスケ部と、パターンがよう似てる。勝つことにのみ達成感があると思い込んでしまう。まして高校生活は3年間。ゆっくり選手を育てようという姿勢を見失ってしまうんやね。試合中にたたけば選手は集中する。暴力におびえているだけなんやけど、「緊張感を切らさずやってるな」と勘違いしてしまう。それは指導者のおごりや。
僕自身の気づきは選手時代。全日本では練習は厳しかったが体罰はなかったから、実業団に帰るんがいややった。実業団では体罰だけじゃなく、どう考えてもデッド(無効)になっているボールを「拾いに行け」と言われたりしていた。全日本を経験し、それは理不尽やと。
ジュニア・ユースや女子の指導をする中で、その感じを思い出した。ビンタなんかしていて世界に太刀打ちできるのか。それよりも、将来有望な選手を預かっているんやから、世界を見せるという大きな目標を与えることが大事。そう考えるようになって、手を出さなくなりました。
■ほめて自信
スポーツをやる以上、目標は「一番」におかなあかん。でも目標があれば必ず失敗する。負けた原因を見極め、努力し続けることで、それが勝ちに変わっていく。僕も何度も負けを経験してきた。インターハイ3位、国体2位。でも10年後には日本代表のユニホームを着てたんです。子どもたちに「全国大会は一つの通過点。それがダメでもオリンピックを目指せる」と気付いてほしい。もっと言えば人生で金メダルが取れたらいい。選手もトレーナーも栄養士も、それぞれが輝ける舞台を用意することが僕らの責任やと思う。
子どもたちはコートや部活を奪われた痛みを知っている。ここにもう一度世界で戦ってきたトップアスリートを招くなどして、スポーツの楽しさを教える。伸びる瞬間を見逃さずにほめ、自信をつけさせる。桜宮の教員も、今回の失敗をきっかけに学び直させ、成功させて転勤させれば、地域全体でよい指導者が育っていくと思う。落ち込んだまま他校に出すことが、大阪市全体のスポーツ指導を考えたときに正しいのか。
痛いめにあったからこそ桜宮は体育科の先行モデルになっていく可能性がある。僕はそう信じています。

http://digital.asahi.com/articles/OSK201302180025.html