さらば、アラブ

アラブ馬、最後のレース サラブレッド人気に押され
かつてサラブレッドと並んで日本の競馬界を支えたアラブ馬が姿を消す。ただ1頭の現役の競走馬「レッツゴーカップ」が在籍する広島県福山市営競馬が24日、赤字を理由に廃止されるため。最後のアラブ馬は23日、ラストレースに臨んだ。
レッツゴーカップが若いサラブレッド9頭に交じってエントリーしたのは午後0時40分の第5レース。スタートから出遅れて第3コーナーで最後尾になり、10頭中10位でゴールした。
12歳のオスで、人間なら50歳以上にあたる。2003年10月にデビューし、158戦で24勝。数年前からスピードに衰えが目立ち、11年3月に勝った後、この日のレースまで27連敗中だった。デビュー当時は黒っぽかった毛色も全身が雪のように真っ白になった。
調教師の柳井宏之さん(38)は「これだけ長く現役を続けられたのは大したもの。アラブらしい『無事是名馬』だと思う」。
戦後すぐはサラブレッドが十分に確保できなかったこともあり、全国で多くのアラブ馬がレースに投入された。サラブレッドに比べて従順で扱いやすく、頑丈で粗食にも耐えるため、需要が高かったという。アラブ馬限定のレースも多く開催され、人気を呼んだ。
だが、スピードで勝るサラブレッドの人気が高まるにつれて、アラブ馬は減っていった。日本中央競馬会(JRA)は1995年にアラブ馬限定のレースを廃止。地方競馬も「アラブ王国」と呼ばれた福山市営競馬の2009年のレースが最後で、近年では残った数少ないアラブ馬がサラブレッドに交じって奮戦していた。
地方競馬全国協会などによると昨年4月時点で、アラブ馬はホッカイドウ競馬(北海道)1頭と福山市営競馬5頭だけ。地方競馬最多の55勝を昨年7月に挙げた同競馬のモナクカバキチなどが相次いで引退し、今年1月からレッツゴーカップ1頭だけになった。
レッツゴーカップは23日のレース後、スタンドのファンの前を走り、「よくやった」と拍手を浴びた。引退後は京都市右京区の乗馬クラブの乗用馬として過ごす予定だ。馬主の神戸市須磨区の西田数子さん(77)は「最後まで元気で走ってくれたので、それで十分です」と愛馬をいたわった。
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〈アラブ馬とサラブレッド〉 日本中央競馬会(JRA)によると、競馬で「アラブ馬」と呼ばれるのはアラビア半島が原産のアラブ種とサラブレッドを交配した品種で、アラブ種の血が25%以上の「アングロアラブ」を指す。サラブレッドは、欧州産の馬とアラブ種をかけあわせて競走馬用に改良した品種で、アラブ種の血は25%未満。小ぶりで穏やかなアラブ馬が乗用馬向き、スピードに勝り、気性の激しいサラブレッドがレース向きとされる。中央競馬のアラブ馬は最も多かった1956年で253頭(同年のサラブレッドは382頭)。地方競馬では71年に1万3246頭(サラブレッドは6606頭)が在籍していた。

http://digital.asahi.com/articles/OSK201303230069.html?ref=comkiji_txt_end_kjid_OSK201303230069